皆さん、こんにちは。AGSスタッフです。
今回は、標題の件についてです。日本人労働者にフォーカスしても、大別して駐在員と現地採用者がいますが、これらはいずれの方々にも当てはまるイシューです。
1. 労働許可証/WPの返却について
前提として、退職 = 労働契約の終了ですが、労働契約の終了は労働許可証の失効事由となります(労働法第156条2項)。本題との関係では余談ながら、逆もまた然りで、労働許可証が例えば期間満了等により失効した場合、外国人の労働契約も自動解約となります(同法第34条12項)。
そして、労働許可証が失効した場合、その発行機関即ち労働局を吸収した内務局に、失効から15日間以内にその旨通知すると共に、当該労働許可証を返却すべきことになります(政令#219/2025/ND-CP第31条1項)。
従い、労働契約の終了後まずかかる通知及び労働許可証の返却をするというのが、まず最初のタスクになります。
2. 一時滞在許可証/TRCに纏わる手続について
次に、一時滞在許可証についてです。
出入国等管理に関する法律#47/2014/QH13第45条2項e号に照らし、一時滞在許可証の期間中にその保有者が最早一時滞在許可証の取得事由となる企業による庇護(sponsorの意訳)を希望しなくなった場合、出入国管理当局にその旨通知すると共に、当該当局と共に、対象者をベトナムから出国させるため助力すべきことになります。
従い、こちらが第2のタスクとなります。
なお、対象者の協力が得られる場合、その方の不法滞在等があった場合の責任転嫁等を避けるべく、TRCも共に返納してしまった方がより安全ではあります。ただ、こちらは法令上の義務ではありません。また、直近で、TRCがない場合、帰国時にイミグレーションでトラブルになった事案が報告されております。あまり係争性なければ、帰国後にTRCを返却する旨の念書等を取り、一旦預けてあげるということも検討に値します。
3. 法定退職金について
最後に、法定退職金についてです。
こちらも一つ、前提を措かせて下さい。そもそも、
– 対象者の勤続期間が12か月未満である場合(労働法第46条1項参照)や、
– 対象者に労働法令違反がある場合(ex. 一方的解除の事前通知義務違反等)(同法第40条1項)
には、法定退職金の支払義務は生じません。
上記いずれにも該当しない場合には、原則として、法定退職金の支払義務が生じます。失業保険加入期間は法定退職金起算の基礎となる勤続期間に算入されない(同法第46条2項)ものの、日本人等外国人労働者は失業保険には加入できないためです。その計算方法ですが、同法第46条2項及び3項、政令#45/2019/ND-CP第46条3項並びに政令#145/2020/ND-CP(以下”政令#145″といいます)第8条3項c)号に照らし、下記の通りです(例: 勤続期間17ヶ月間の場合):
直近6ヶ月間給与 * (0.5 + 0.25)。対象の方が所謂高給取りだった場合には、相応の金額になりますね。
それでは例外です。例外といっても労働法令上の義務なのですが、実務上未だあまり浸透しておらず、また日本人労働者も労働法令を知悉していないため、雇用者側もかかる規定を知らず、労働者から求められることもなく、また所轄の労働局(を吸収した内務局)も何かしらの指摘をせず、今日まで放置されているというところも多いかと拝察します。
労働法令はというと、労働法第168条3項に基づき、労働者が失業保険に加入できない場合には、雇用者が支払うべき失業保険額即ち公的保険算定の基礎となる給与の1%(会社負担分)を当該労働者に毎月給与に”on”して支払うべきことになります。
ここまでだと雇用者の負担増でbad newsにもなり得るところですが、今回はここから逆転があります。即ち、政令#145第8条3項には、法定退職金算定の基礎となる勤続期間について、下記:
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退職手当および失業手当の支給額を計算するための労働時間とは、従業員が雇用主のために実際に働いた総期間から、失業保険法の規定に従って従業員が失業保険に加入した期間と、雇用主が退職手当および失業手当を支払った労働時間を差し引いた期間であり、差引期間には下記が含まれる:
(中略)
b) 従業員が失業保険に加入している期間には、従業員が失業保険に加入している期間と、失業保険への加入は義務ではないが、労働法および失業保険法に基づいて雇用主が給与に加えて失業保険料に相当する追加金額を支払っている期間が含まれます。
(以下略)
—
の通り規定しています。
つまり、労働法第168条3項に基づき追加支払をしていた期間については、退職金算定の基礎となる勤続期間に加算されず、従い失業保険に加入しているベトナム人と同様、法定退職金を極力圧縮し得るということになります。
相応に高給で、退職時に法定退職金を請求してきそうな方を採用する場合、或いは既に雇用している場合、期中からでもかかる補填を実施するというのも一考に値するかと思います。
なお、かかる規定を知悉せず、今まで支払っていなかった場合に、前月以前についても後から一括で支払することで法定退職金を圧縮することができるか否かですが、係争に至った場合、解釈に亘る部分もあるものの、当社見解では、労働者保護の精神(労働法第4条1項前段)に照らし、裁判所は労働者に有利な判断をする可能性が高いようには思われます。
当社では、前記1.及び2.の手続支援の他、お客様の個別具体的な事情に応じた3.を含む制度の構築支援等も実施しております。駐在員の方が帰任される際にもあまり顧みられず、所轄当局からの指摘を受ける例というのも当社の知る限り現状稀ではありますが、コンプライアンス全う等の観点からは一応留意すべき論点です。
もしご興味あれば、是非info@ags-vn.comまでご連絡下さい。