1. はじめに
皆さん、こんにちは。AGSスタッフです。本日は、標題の件についてです。所謂”駐在員”で、ベトナム現地法人とも労働契約を締結し、給与(の一部)をベトナム法人から受け取っている方々に影響を及ぼす可能性の高い論点となります。また、駐在期間が4年を超す方々も、要留意となります。
2.駐在員の社会保険加入免除
皆さんのうち所謂”駐在員”即ち親会社/関連会社の命令により訪越され、当地にて勤務されている方々(以下単に”駐在員”といいます)は、労働許可証/WP又は労働許可の免除証明書/WPECの取得理由を、企業内異動とされる場合が多いかと思います。
その理由として、勿論実体に則しているというのもありますが、加えて社会保険加入免除の恩恵に与ることができるからということも大きいと思われます。
即ち、社会保険に関する法律第2条2項a号において、下記
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ベトナムにおける外国人労働者に関する法律の規定に従って企業内で異動していること
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の要件を充足する場合、12ヶ月間以上の労働契約に基づきベトナムに勤務する外国人労働者であっても、社会保険加入が免除されております。こちらに従い、現状、社会保険に加入している駐在員は、当社の知る限り殆どおりません。
ここまでは前提です。従前に比して、実質的な変更はありません。
3.駐在員の現地法人との労働契約締結及び履行の禁止
しかしながら、ここからです。
政令#219/2025/ND-CP(以下”本政令”といいます)に関連して、労働局/MOLISAと統合された内務省/MOHAより、概要下記
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新政令では、外国人従業員は1つの就労形態のみを選択できると定められています(本政令第2条第1項)。外国人従業員が企業内異動の形態で働く場合、ベトナム国内で労働契約を締結したりすることはできません。
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の公式回答がなされました。こちらがソースとなります↓(ベトナム国政府電子新聞のウェブサイトに遷移します):
https://baochinhphu.vn/co-ky-hop-dong-voi-lao-dong-nuoc-ngoai-di-chuyen-noi-bo-dn-102250911105951088.htm
かかる回答に照らし、駐在員が企業内異動で労働許可証や労働許可免除証明書を取得したにも拘らず、現地法人と労働契約を締結し現地法人から給与を受け取った場合、労働許可や労働許可免除の条件に違反したことになります。そうすると、雇主たる会社に、5乃至7.5milVND/人の罰金が課される虞があります(max75milVND、政令#12/2022/ND-CP第32条2項)。加えて、例えば労働許可免除証明書の取消(本政令第32条1項及び5項)のように、よりドラスティックな結果を惹起する可能性も皆無ではありません。税務調査に際して、経費算入如何のイシューを惹起する可能性もあります。
従い、コンプライアンスのみならず、現地法人及び駐在員のリスク管理の観点からも、爾後このような形態での給与収受は避けるべきことになります。
他方、会計税務的にイシューを惹起する可能性はありますが、当社見解ながら、例えば、
– 駐在員は現地法人と労働契約書を作成締結しないけれども、
– (現行実務上、労働許可証又は労働許可免除証明書を保有している外国人は、ベトナムにおいて給与口座を開設できるため、)現地法人が駐在員に対し、ベトナム側で給与相当額を支払い、
– 立替契約等により、現地法人から日本法人に対し、立替金として請求し課金する
形であれば、上記内務局の見解を前提としても採り得る途となる可能性があります。つまり、ドキュメンテーションと、会計士及び銀行との調整で、従前の運用を維持し得る可能性があります。
4.企業内異動を理由とする駐在期間の短期化の可能性
さりとて、です。もう一点、ネガティブ方向で重要な動きが見られます。
直近で内務省担当官より、口頭ながら、概要下記
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企業内異動を理由としてベトナムにおいて働く外国人は、あくまでも一時的にベトナムにおいて働くことを前提としている。従い、企業内異動を理由とする労働許可又は労働許可の免除を多数回発行することはできない。他方、初回の更新については認められ得るところである。
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の見解が呈されました。かかる見解は、企業内異動が固定期間であることを前提とする本政令第7条3項b号及び第18条6項b号に纏わり呈されたものです。実務上、労働許可証や労働許可免除証明書の期間は2年間となるため、2 + 2 = 4年間が、上記見解に照らしmaxとなります。
当社の知る限り、実際上ベトナムに4年以上留まる駐在員の数は相当多いです。そういった方々は、4年超過以降、労働許可や労働許可免除の理由を現地法人との労働契約の締結、即ち所謂現地採用とせざるを得ず、伴い爾後社会保険への加入を求められる虞があります。
かかる煩を厭い、爾後駐在員の出向期間が短縮される可能性があります。これは、なるべく長くベトナムにいたいという方々にとっては、bad newsになるかもしれません(とはいえ、現状、コスト感的には200USD/月程度ではありますが)。
こちらは未だ法令化されておらず、本当に内務省の云うような運用となるのか、動向を注視すべきこととなります。ベトナムは未だ多くの外国投資を必要としており、あまりそれを妨げるような運用にはならないのではないかとも、希望的観測ながら思われます。
5.縮小の理由と今後の留意事項
ここからは、あくまでも当社見解となります。細かな数字はJETROやJICA、日本国外務省等の方が詳しいので、そちらをご参照下さい。
過去10年間、ベトナムの一人当たりGDPは大きく伸び、今やフィリピンを捉え追い越しました。少し遠いけれども、インドネシアの背中も見えています。しかしながら、日本人を含むアジア人の宿命か、これと反比例して合計特殊出生率は急速に低下し、直近で2を下回る状況です。赤ちゃんが産まれなければ、当然高齢化が進みます。他方、それを補うほどの経済成長が続くかは判りません。そうすると、タイ等中進国が直面しているのと同じく、国家として、お金持ちになる前にお爺さんお婆さんになってしまうという状況になる可能性が高くなります。
ベトナムの社会保険は日本で云う年金を兼ねており、巷のお爺さんお婆さんの生活を維持するためのセーフティネットです。平均年齢が若いうちは、沢山の若者がお爺さんお婆さんを支えてくれますが、高齢化すれば、いつかは我が日本のように、減少する若者が増加するお爺さんお婆さんを支えなければならないといった状況になります。日本にはまだ、過去の貯金があるので、一定期間は今やっていることを持続できるでしょう。他方、ベトナムがそうなるタイミングで、果たしてどの程度貯金があるか?
上記をふまえると、今後、社会保険の加入義務者の拡大や、取立厳格化等、増額方向の流れになっていくことが予想されます。
従い、駐在員については、前記3.及び4.を念頭に、ベトナムにおいて如何に立ち振る舞っていくか、再度検討すべきタイミングと拝察されます。
加えて、例えば公的保険料算定の基礎となる賃金に賞与も追加する等、或いは料率上昇等、今後も公的保険料の負担は増加していくことが予想されます。そうすると、本論からは離れますが、ベトナム人スタッフの給与を額面/グロスでなく、手取り/ネットで規定している企業も、どこかで前者に移行することが推奨されるところです。日系企業が、増加する他国の公的保険料の負担を一手に引き受ける筋合いもないためです。
当社では、労働許可証や労働許可免除証明書取得や、一時滞在許可証/TRCの取得の支援、公的保険料の変遷を前提とした労務周りの改革支援等、公的保険に纏わる多種多様な業務を提供しております。もし需要があれば、是非info@ags-vn.comまでご連絡下さい。