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パートタイム労働者の公的保険への強制加入について


1. はじめに
皆さん、こんにちは。AGSスタッフです。
先日のupdateにて、所謂駐在員にも社会保険の手が迫りつつある点について触れました。詳細、下記リンク先をご参照下さい(当社ウェブサイト内別ページに遷移します):
所謂”駐在員”の社会保険加入免除の恩恵の縮小/短期化について – AGS(AGS JOINT STOCK COMPANY)
本日は、所謂パートタイム労働者についてもその手が伸びつつあるという点になります。こちらは特に物販や飲食店等、パートタイム労働者を多用している方々にとってbad newsになり得るところです。
2. パートタイム労働者との定義と、従前の実務状況
前提として、ベトナム労働法上、所謂パートタイム労働者とは、下記

第32条 短時間労働
1.短時間労働者とは,労働に関する法令,集団労働協約,又は就業規則に規定された1日あたり,1週あたり又は1月あたりの通常の労働時間と比較してより短い労働時間の労働者である。

の通り定義されます(以下単に”パートタイム労働者”といいます)。日本のイメージとほぼ同じですね。
長くなり、且つ本題の前提に過ぎないため、詳細は割愛しますが、旧社会保険法たる法律#58/2014/QH13(以下”旧社会保険法”といいます)では、公的保険の強制加入対象として、必ずしも明確にパートタイム労働者は含まれておりませんでした(同法第2条参照)。現行労働法たる法律#45/2019/QH14(以下”労働法”といいます)の規定とは整合しない部分があるのですが、ともあれ、かかる一片の曖昧さを盾に、パートタイム労働者については公的保険加入を渋っていた物販や飲食店等も多かったと拝察されます。また、当社の知る限り、実務上の取締もさほど厳格ではありませんでした。
3. 新社会保険法における改正(日系物販や飲食店にとっては改悪?)
しかしながら、新社会保険法たる法律#41/2024/QH15(以下”新社会保険法”といいます)では、かかる点がより明確化されてしまいました。同法は、本年7月1日より施行されております(第140条)。
即ち、同法第2条1項a号では、公的保険の強制加入対象として下記

雇用者と労働者が別の名称で呼称している場合であれ、仕事内容、給与、報酬、一方当事者の管理が明記されている限り、無期雇用契約、1ヶ月以上の雇用期間のある契約で働いている人。

の通り規定されております。こちら自体は労働者の定義について労働法との整合性を図る趣旨と解されます。ここからが本題で、同項第l号において、上記加入対象には下記

本条第a項に規定する者で、フルタイムで働いておらず、その月の給与が強制社会保険が支払われる最低給与と同等かそれ以上である者。

の追記がなされております。こちらも大局的には労働法との整合を図る趣旨と解されるものの、所轄当局にとっては、パートタイム労働者でも上記要件を充足すれば公的保険に加入すべき旨求めるより具体的且つ明確な根拠となります。
従い、遅くとも本年7月1日以降は、パートタイム労働者であれ上記の要件を充足する場合には、厳格には公的保険に加入させるべきことになります。
4. 不払リスクと実務への影響
前記より、新社会保険法下では、旧社会保険法下に比して、より公的保険未加入のリスクが増大したと言わざるを得ません。具体的に、滞納金(新社会保険法第38条、第40条1項。0.03%/日)や行政罰(同法第40条2項)、ひいては刑事責任リスクまで示唆されております(同法第41条2項参照)。
行政罰の詳細については、新社会保険法により改正されず未だ効力を有する政令#12/2022/ND-CP第39条5項乃至7項に規定されております。リスクを感じる方々は、そちらも併せてご参照下さい。
実務への影響ですが、物販や飲食店等はいわば薄利多売で事業を実施しているところも多く、公的保険加入による突如の人件費の大幅増加により、直接経営が圧迫されることが危惧されます。また、所轄当局が外資から取立を始めた場合、公的保険加入による目先の手取り減少を嫌うパートタイム労働者の離反や、労働市場でコンプライアンスにあまり頓着しない(従い公的保険にも加入させず、伴い引き続き労働者が自己負担分の公的保険料を支払わなくともよい)ローカル企業に採り負けるような事態も想定され得るところです。
引き続き外国投資を勧奨したいベトナム政府が外資系物販や飲食店等をどの程度締め付けてくるか不透明な部分も未だありますが、中長期的にはパートタイム労働者の殆どの皆保険を強いられる可能性が非常に高まってしまったということになります。
勿論コンプライアンスは重視すべきですが、例えば新社会保険法でも維持された所謂14営業日ルール(同法第33条5項、第34条3項参照)や、将来の改正示唆されているように解される(同法第7条)ものの未だ公的保険料の算定の基礎となる賃金(ex. 賞与はかかる賃金には含まれないと解され得る)について抜本的な手入れがされていないところ等を有効活用し、終局的な判断権限は所轄当局に属するとはいえ、現況適法と解され得る範囲で急激な負担上昇を極小化していくことも検討に値します。

当社顧問先には、ウェブサイト掲載情報より詳細且つ最新の情報を随時update差し上げております。また、本件に纏わる単発でのコンサルティングも提供可能です。ご興味のある方々がいらっしゃれば、是非info@ags-vn.comまでご連絡下さい。

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