Search

スタッフによる有休取得の予見化と適正化について



1.はじめに
皆さん、こんにちは。AGSスタッフです。本日は標題の件についてです。
例えば旧正月明け等長い休みの後、スタッフが初日から急な有給休暇(以下「有休」といいます)を取得し、イラっとされた経験のある方も多いかと思います。昔で云う”もしもし欠勤”ですね。
私は永らくベトナムで働いておりますが、経験上、日本人が来るタイミングで毎回有休を取得してくれるスタッフや、当社一部テレワークを導入しているのですが、月水金オフィス勤務(有休)、火木テレワーク等、GPSを付けてあげたくなるくらいアクロバティックな(しかし判り易い)離れ業を見せてくれるスタッフ等、実に多彩です。
このような急な、変則的な、或いは繁忙等有休を取得されたら困るタイミングでの取得を防ぐ術はあるのでしょうか?
2. 有給取得の予見化と適正化の手法
結論、あります。製造加工等一定の規則性を以てワーカーを稼働させる必要がある皆さんにとっては、既に一般的かと思います。他方、ホワイトカラー系の業種ではあまり知られていないこともあるようです。
具体的に、労働法第113条4項の下記規定

第113条 年次有給休暇
4.使用者は,労働者の意見を聞いた後に,年次有給休暇の日程表を規定して,労働者がそれを知ることができるように事前通知する責任を有する。労働者は,年次有給休暇を多数回に分けて,又は最大で3年分をまとめて1回で取得することを使用者と合意することができる。

です。こちらに基づき、労働者の意見を聞いて、例えば
i. 一定日数の有休(ex. 6/12日間等)については予め取得日を確定し、
ii. 残り(ex. 6/12日間)についても事前通知(ex. 3営業日前まで等)を必要とする
旨の規程を策定することが考えられます。
こちらを策定すれば、規程に反する有休申請に対し、適法に”ダメだよ、認めません。従い、無断欠勤になってしまうよ”と優しく諭してあげることができるようになります。
労働者の意見の聞き方ですが、労働法令上特段の規定はなく、従い労使懇談の形であれ、コメントを募りそれらを集約する形であれ、問題ありません。ポイントは、労働者の意見を聞く必要はあるけれども、必ずしも同意を得なくても足りるところです。
しかしながら、一点留意事項があり、何らかの事由により予め確定した取得日に出勤を求める場合、有休中の時間外労働となり、手当が300%と割高になる部分です(労働法第98条1項c号)。こちらから合意を覆す以上仕方ないですが、デメリットとして念頭に置くべきところではあります。
なお、かかる規程を設けていなかった場合、少なくとも労働法令上は、如何に急、変則的又は繁忙であれ、一定の根拠を以て有給取得申請を拒絶したり時季変更を要求したりするのは難しいと解されます。有休取得自体は労働者の権利であり、労働法令上その余の明確な制限もないためです。また、日本のように所謂時季変更権に関する裁判例の蓄積もなく、そのような権利が認められる可能性は高くないと当社としては考えます。
3.就業規則における規定の要否
では、かかる取極を就業規則に規定する必要まであるのでしょうか?
労働法第118条2項a号及び政令#145/2020/ND-CPに規定される就業規則における必要的記載事項を見ても、必ずしも明確ではありません。
解釈に亘る部分もありますが、当社は就業規則における規定までは不要と考えます。
理由は、必要と解すると、実際上毎年就業規則の当該部分を改訂しなければならなくなります。ご存知の方も多いかと思いますが、所轄の内務局における就業規則の改訂登録(労働者数10名以上の場合必要)には相応の期間と労力を要し、前記2.の事項のみを反映させるために毎年改訂するというのは率直に現実的ではありません。立法者がかかる不合理を雇用者に強いているとは解し辛いというのが一点です。加えて、再度労働法第113条4項の規定をみても”就業規則に”規定とは書いておらず、且つ上記の通り就業規則における必要的記載事項にも明記されておらず、法令もかかる解釈を妨げるものではないと考えられるためです。
かかる解釈に依拠すれば、前記2.のプロセスは遵守しつつ、形式としては社長の一存で制定改廃し得る社内規程として整備する形が考えられます。
4.その他不合理な有給申請を抑制するための手法
その余の手法ですが、賞与支給如何や金額、昇給如何や割合等の決定に際して、当期/前期の有休の取得ぶりを一定程度評価に反映させることが考えられます。労働法令上も雇用者にフリーハンドが与えられる数少ない場面であり、これを活用しない手はないとも言い得るところです。
但し、就業規則その他の社内規程や、集団労使協約等において、上記事項に関しいわば自縄自縛していないかについては事前に確認検討する必要があります。
加えて当社のようにテレワークを導入している場合、急な或いは変則的な有給取得に対するペナルティとしてテレワークを解除し、一定期間毎営業日オフィス勤務とすることも考えられます。こちらも労働法令上の労働者の権利ではないため、同じく自縄自縛していない限り、専ら雇用者の裁量により決定し得るところです。テレワークの方がオフィス勤務より心地よいと感じるスタッフが多く、こちらも一定の抑止力にはなり得るところです。
5.終わりに
縷々書きましたが、あくまでも規程としては厳格にしておくべきという趣旨となります。
勿論人間ですから、本当に体調の悪いときもあるでしょう。その際四角四面に否認やペナルティ適用としてしまえばスタッフの忠誠心も下がり、逆効果です。
筆者がよく言うことではありますが、規程策定時には性悪説を採り、他方適用時には愛情を持ってというところの一局面となります。
実際上、あまり目に余る有給取得をしたスタッフに対し、一罰百戒的に否認やペナルティ適用とし風紀を維持していくというような活用がいいのではないかと思います。法令から離れますが、ADMスタッフやベテラン等、そのような予測不能な作為不作為を戒める空気の醸成も勿論図っていくべきことになります。
当社ではかかる規程策定や変更、その他有休含む労務管理適正化に纏わる法的アドバイス等多種多様な法務労務コンサルティングを提供しております。もしご興味あれば、是非info@ags-vn.comまでご連絡下さい。
ではまた。

Japan
Vietnam