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みなさんこんにちは。
AGSホーチミン事務所の閑野です。
本日は、前回に引き続きベトナムの牛乳市場についてご紹介させていただきます。
ベトナムの2大乳製品メーカー
現在のベトナム牛乳市場は2つの乳製品メーカーによって寡占状態にあります。1社目が業界最大手のビナミルク、そして2社目が業界2番手のTHミルクです。
ビナミルクは前回もご紹介した通り、国営企業として76年に設立された乳製品メーカーで、牛乳に栄養価を含有させる事でベトナム人の「健康」需要を刺激し、市場シェアの約50%を占める地場企業の雄です。(ビナミルクに関しては前回ブログ[<a href=”http://ags-vn.com/ja/weblog/32324.html”>牛乳文化の興り~ベトナムの一大産業になるまで~</a>]をご確認ください。)
THミルクは設立が2008年と比較的新しい企業でありながら、めきめきと頭角を現し、たったの数年で業界2位の座を掴んだ新興企業になります。
同企業の急激な成長を促進させた要因は「食の安全」といった側面を強調した点にあります。
THミルクが設立される前年の2008年、中国産牛乳からメラニンが検出され、多くの消費者が「食の安全」を求める風潮にありました。(THミルクの社長のインタビューによると、2009年時点で還元ミルクの市場シェアは約80%を占めていたといいます。)
ベトナムで流通している牛乳の大半が外国産の還元ミルクに依存しているため、消費者はビナミルクを含めた国内市場の牛乳に安全性を見出せずにいました。
そこに登場したのがTHミルクです。
同社は国外から大量の乳牛を持ち込み大規模な酪農事業を始め、安心で安全な「牛乳」の生産に取り掛かりました。
2013年時点の統計によれば、ビナミルクが約1万頭に対してTHミルクが約4万頭であったということからも、同社の生乳に対するこだわりがいかに強かったかを感じる事ができます。
この姿勢は同社の主力商品である清潔な牛乳「トゥルーミルク」という名前に色濃く反映されているように思えます。
牛乳市場が抱える問題
順風満帆な成長をみせているベトナムの牛乳市場ですが、この市場も例に漏れず大きな問題に直面しています。それは、消費需要に対して生産供給量が圧倒的に不足している点です。
ベトナムは酪農産業の歴史が浅く、産業としての体制、特に乳牛の頭数はまだまだ不十分であるといえます。
2014年には約55万トンの牛乳が生産されましたが、これでも需要全体の約4割にも満たしていないと農業・地方開発省の調査は公表しており、現状の倍以上の頭数が必要である事が伺えます。
この状況が、未だにベトナムで「生乳」ではなく「還元ミルク」が市場の大半を占める原因を作り出す直接の原因となっているようです。
また、この様に「生乳」の国内生産が追いつかない事で生乳の希少性があがり、かつ外国産の「還元ミルク」が市場の大部分を占めることで国外からの影響を受けざるを得ず、原料の供給が不安定になると自然発生的に牛乳そのものの値段が高騰していきます。
2009年の地元新聞の記事によると、ベトナムの乳製品が世界で最も高い価格帯にある事が公表されており、その価格は先進国並みである事が指摘されています。
7年の歳月が過ぎた現在でもこの価格に変化は特に見られず、未だに大手2社の牛乳は1ℓあたり4万ドン(200円前後)となっており、日本と同額かそれ以上の価格設定になっています。
政府の解決策
この状況を改善すべく、ベトナム政府は2010年に「2020年に向けた畜産開発戦略」を公表し、2020年までに乳牛の頭数を50万頭まで増加させる目標を掲げています。この一環として、政府はJICAなどの機関と提携を結ぶ事で酪農産業の底上げに努めており、着々とその規模を広げているといいます。
上記の2社もこの戦略に大きく同調しており、ビナミルクは約1万頭(2013年)から20万頭へ、THミルクは約4万頭(2013年)から20.3万頭を目指すことを公表しています。
しかし、ベトナム統計局の調査によれば、2013年時点の全国の乳牛頭数は18.6万頭である事が判明しており、目標頭数の50万頭を達成するにはかなり厳しい状況にあるといえます。
総括
ベトナム進出のカギは「健康」と「食の安全」にあり、といった言葉をしばしば伺いますが、この発想はまさにこの2社が生み出したトレンドなのではないかと私は考えています。両社は市場シェア率の高さから来る「企業ブランド力」もさることながら、そのベトナム人消費者の心を掴んだ「企業としての決断力」に関しても多大な評価を得ています。
特に歴史が長いビナミルクは、ブランド・ファイナンス社(イギリスに本社を置くブランドコンサルティング企業)の調査によると、2015・2016年と連続で「地場企業の中で最もブランド力の高い企業」として評価されています。
THミルクも、近年の目覚しい急成長が国内外で高く評価されており、米フォーブス誌の「2015年、アジアで最も影響力のある女性企業家50人」に同社の社長タイ・フオン女史(Thai Huong)がノミネートされています。(ちなみに、ビナミルクの社長マイ・キエウ・リエン女史(Mai Kieu Lien)も同時にノミネートしている。)
また、前回冒頭でも触れましたが、ベトナムの大手求職求人サイトのケアービルダー(careerbuilder)が2015年に行った就職先人気企業に関する調査によると、ビナミルクが1位に、そしてTHミルクが3位に輝いたといいます。
両社がこの様な評価を得られたのは、ひとえにベトナム人の「健康」・「食の安全」を満たし、その結果として厚い信頼を勝ち取ったからに他なりません。
そのような意味で、両企業は今後のベトナムビジネスの世界では一種のロールモデルとして今後も語り継がれていくのではないでしょうか。
それでは本日は以上になります。 ヘンガップライ。