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【AGS法務部ニュース】ベトナムの相続制度

Q. ベトナムの相続はどういった制度になっていますか?

A. ベトナム民法No.91/2015/QH13第4部には相続の規定が置かれており、以下のような法令の建付けになっています。

  • 第11章(第609条から第623条):一般条項
  • 第12章(第624条から第648条):遺言
  • 第13章(第649条から第655条):法定相続
  • 第14章(第656条から第662条):遺産の処理及び分配


相続は死亡によって開始し、相続人の権利及び義務は相続の開始時から生じます[1]。

また、第13章に規定される法定相続は、遺言がない場合、遺言が違法である場合、遺言による被相続人が相続前又は相続時に全て死亡している場合、遺言による被相続人が相続権を有しておらず又は権利を放棄した場合等に適用されます[2]。そのため、相続人の最後の意思である遺言が残されている場合は、原則としてその遺言内容に基づいた相続がされ、遺言がない等の場合に民法等の規定に従った法定相続が実施されることになります。



Q. ベトナムにも遺言という概念はありますか?遺言にはどのような種類がありますか?

A. 上記のとおり、ベトナム民法には遺言に関する規定が置かれており、彼/彼女の財産をその死後に他の者に譲り渡すために作成される自然人の意思の表現であると定義されています[3]。

日本にも遺言の種類、方式としていくつかのものが規定されていますが、ベトナムでも同様に複数の遺言の種類、方式があります。大きく分けると書面による遺言と口頭による遺言がありますが、口頭による遺言は病気その他の理由により死亡の可能性があり、書面による遺言が作成できない場合にのみ認められているため[4]、原則として書面による遺言の作成が要求されています。口頭による遺言は日本の民法上の危急時遺言に相当するものと考えられます。

証人のいない遺言は作成日、相続不動産の内容、相続人の氏名等を内容とし、作成者が自筆で作成し、署名しなければなりません。証人のある遺言は自筆で遺言を作成することができない場合に、証人の欠格事由に該当しない者2名以上による立会いの下で他の者に作成を依頼し、本人は証人の前で遺言に署名又は指紋の捺印をすることでその内容が遺言者の真意であること、文書の完成を担保するものです。公証、認証された遺言は、公証事務所職員又はコミューン級人民委員会職員の面前にて遺言者が遺言の内容を宣言し、職員が聞き取り作成した遺言の真実性、正確性を担保するために、遺言者が署名又は指紋の捺印をします[5]。

(参考:日本とベトナムの遺言の種類、方式)
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Q. ベトナムの相続制度上の法定相続人は誰ですか?また、法定相続人の相続分はどのくらいですか?

A. 法定相続人は下記の相続関係図に記載された者になります。第1順位から第3順位まで分かれており、上位の順位に当たる者が死亡、相続人の欠格事由への該当、相続人の廃除、相続放棄により相続することができない場合に下位の相続順位の者に相続権が認められます。また、同一の相続順位間の相続分は等分になります[6]。日本では、常時配偶者が法定相続人となり、相続順位が下になるにつれて配偶者の相続分の割合が多くなっています。しかし、ベトナムでは配偶者は第1順位に位置付けられており、配偶者が生存し、相続放棄等により相続する権利が失われていない限り、祖父母や兄弟姉妹の下位の相続順位の者には相続権がないことから、相続人以外の法定相続人の順位によって相続人の相続分の割合が多くなるということはありません。

(参考:ベトナムの相続関係図)
fd Q. 日本の遺留分減殺請求権のように、法定相続人への一部の相続を認める制度はベトナムにもありますか?

A. 日本の遺留分減殺請求の制度は、例えば被相続人が法定相続人以外の他人に対して遺言により全ての相続財産を遺贈する場合において、その遺言の内容にかかわらず法定相続人に一定の割合を相続させる制度であり、法定相続人の生活保障や相続への期待権の保護がその制度趣旨と考えられています。

ベトナムにも類似の制度が規定されています[7]。すなわち、遺言者が、遺言者の未成年の子供、父、母、配偶者、若しくは成年に達しているが労働能力がない子に相続を認めず、又は法令に従って相続財産が分配された場合に当該者が相続することができる財産の3分の2未満の相続を認める場合、法定相続にて相続できる財産の3分の2を相続することができます。子供、父母、配偶者に対して法定相続時に相続する財産の3分の2の相続が一律に保証され、上記の日本の同様の制度趣旨を読み取ることができます。



Q. ベトナムでは土地は国民全体が所有権を持つ財産であり、国家がその所有権を代表して管理していますが、ベトナム人の個人が土地使用権を保有しており、その者が死亡した場合には、土地使用権は相続の対象になりますか?その他、相続の対象になる財産には何がありますか?

A. 相続財産は、被相続人の固有の財産及び他人との共有財産のうちの被相続人が持分を持つ財産から構成されます。そして、財産には、物、金員、有価証券、財産権からなり、動産及び不動産も含まれます。そして、不動産には土地、土地に付着した住宅、建築物等を意味します[8]。これらの規定からして、個人が保有する土地使用権も当人の財産を構成する不動産として相続の対象財産となります。土地使用権が相続財産となり、遺産分割がされた場合には、それに基づき変更登録を行う必要があります[9]。



Q. ベトナムに発生する相続トラブルにはどのように解決されますか?

A. 区級人民裁判所が相続に関する争いの第1審の管轄権を有します[10]。また、当該相続の争いが不動産に関するものである場合には、当該不動産が所在する裁判所が管轄権を有します[11]。



Q. 日本人がベトナム人と結婚して、その一方が死亡する場合のように、相続人又は被相続人の中にベトナム国籍以外の者が含まれている場合、どのように処理されますか?

A. 相続は、相続財産を残した者が死亡の直前に国籍を有している法令に従って処理されているため、被相続人の本国法が準拠法となります。但し、不動産の相続に関する権利は当該不動産が所在する場所の法令に従います。また、遺言の作成、修正、取消能力は、遺言者が国籍を有する国の法令に準拠し、遺言の形式は当該遺言が作成された場所の法律に準拠します[12]。



Q. 日本では相続において身分関係を証明する書類として戸籍がありますが、ベトナムにも親族関係や婚姻関係を証明する公的な書類はありますか?

A. ベトナムでは身分関係を示す書類として、戸籍、結婚登録書、出生証明書があります。戸籍は相続における親族関係、血縁関係を確定するために用いられ、県級公安当局が所管しています。結婚登録書は結婚関係を確定するために用いられ、登録した夫婦が所在する場所を管轄する人民委員会が所管します。出生証明書は親子関係を確定するために用いられ、所在する場所を管轄する人民委員会が所管します。

以上

[1] 民法第611条1項、第614条

[2] 民法第650条1項・2項

[3] 民法第624条

[4] 民法第627条、第629条1項

[5] 民法第631条から第637条

[6] 民法第第651条

[7] 民法第644条1項

[8] 民法第612条、第105条、第107条1項 なお、動産は不動産以外の財産という定義がされています(民法第107条2項)。

[9] 土地法No. 45/2013/QH13第95条4項a

[10] 民事訴訟法No.92/2015/QH13第35条1項、第26条5項

[11] 民事訴訟法第39条1項c

[12] 民法第680条1項、2項

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