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【AGS法務部ニュース】最新法令のアップデート: (再掲)ベトナム税関職員への贈賄による書類送検~日本とベトナムの贈収賄規制

(1) 直近の摘発事例

2020年1月20日、愛知県警は同県北名古屋市の男性会社員について、追徴課税を減額させる目的でベトナムの税関職員に対して賄賂を渡したとして不正競争防止法違反(外国公務員贈賄)の疑いで書類送検したことを発表しました。

発表によると、男性は電線加工品販売会社のベトナム現地法人の代表を務めていた2014年頃に原材料を輸入した際に実際と異なる品目や数量を書類に記載し、関税の過少申告したところ、これに対する追徴課税の減額や行政処分の減免を目的としてハイフォン市税関局の職員2名に対し735万円相当のベトナムドンを賄賂として提供した疑いがもたれていました。男性は賄賂の見返りとして追徴課税の金額が約5,000万円から400万円に引き下げられたことを認めました。

その後、男性は2020年1月20日に略式起訴され、罰金100万円の略式命令を受けました。

(2) 日本の刑法と不正競争防止法

刑法には贈収賄の罪が規定されており、これらは「公務員」が賄賂を収受したり、「公務員」に対して賄賂の供与する行為等に適用されます。

ここで、「公務員」とは「国または地方公共団体の職員その他の法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」と定義されています(刑法第7条1項)。すなわち、「公務員」とは、国家公務員法・地方公務員法にいう職員や国会議員、地方議会の議員、公務を委任された非常勤の職員等を指し、判例上も外国の公務員は「公務員」には含まれません。そのため、日本国籍の者が外国の公務員に対して賄賂の提供をしたとしても日本の刑法の贈賄罪には該当しないことになります。

もっとも、国際化に伴って外国公務員等との関わりも増え、日本国内の公務の公正性のみならず、国際的な商取引の公正性、公正な競争の確保が求められるようになり、この目的を実現するために不正競争防止法の中に外国公務員等の利益供与の禁止規定が置かれています。

現在の不正競争防止法第18条1項には、外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止として「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、またはその地位を利用してほかの外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、またはその申込み若しくは約束をしてはならない。」と規定されており、「外国公務員等」に対して、営業上の不正の利益を得る目的で、その職務行為をさせないために賄賂を提供する行為等が禁止されています。

この「外国公務員等」には、外国政府または地方公共団体の公務に従事する者や、外国の公的な企業の事務に従事する者などが含まれます(不正競争防止法第18条2項)。

不正競争防止法第18条1項に違反する行為を行った本人に対する罰則は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科であり、その者が法人の代表者や従業員であり不正の利益の供与等の行為が法人の業務に関し行った場合には、その法人に対しても3億円以下の罰金刑が課される可能性があります。

日本人については日本国外で対象行為を行った場合にも処罰対象となりますので、日本のみならずベトナム国内においても処罰対象となる行為を行なわないように留意する必要があります。

上記(1)の事案は、同時期に発生したベトナムのODA案件や鉄道プロジェクトに関連して賄賂の提供が行われた事案と比較すると賄賂の金額は少ない中で罰金刑が科されており、また現地法人による不適切な税関申告を端緒とする特殊な事案とまではいえない点において、日系企業が汚職防止の対応方法を検討する際に参考にすべき事案といえます。

(3) ベトナムの贈収賄規制の概要

贈収賄に関するベトナムの法令には、汚職防止法No.36/2018/QH14(「汚職防止法」)、汚職防止法の実施細則を規定する政令No.59/2019/ND-CP(「政令59」)、刑法No.100/2015/QH13(「刑法」)、刑法の修正法No.12/2017/QH14があり、これらはすべて現時点で施行されています。

まず、汚職防止法では、公的機関およびそこで職務・権限を有する者がその職務に関する組織、個人から贈答を受領することが一律に禁止されています。汚職防止法および政令59が施行される以前は、伝統的行事や結婚式、旧正月時期に提供される500,000VND未満の価値の贈答品で、汚職行為を目的として提供されたものでない等の場合には職務・権限を有する者はこれを受領することができると規定された政府による決定No. 64/2007/QD-TTgがありました。これを根拠として、ベトナム社会においては社交儀礼としての贈答品が許容されると考えることができました。しかし、政令59が施行された2019年8月15日より同決定は失効しており、上記のように贈答の受領が禁止されています。

次に、刑法の中には汚職関連犯罪として贈収賄の規定が置かれています。自己の利益または特定の職務の履行若しくは不履行に影響を与える目的で賄賂を提供した者はその金額に応じて20,000,000VND以上の罰金や非拘束矯正、懲役に処されるおそれがあります(刑法第364条1項~5条)。また、外国公務員、公共国際組織の公務員または公的機関以外の企業若しくは組織において役職または権限を有する者に賄賂を約束した者も贈賄罪として刑法の処罰対象となっていること(刑法364条6項)には注意が必要となります。

ベトナムにおいても昨年からより厳格に規制する贈収賄関連の法令が施行されています。今後の取締強化も念頭におきつつ、少なくとも日本およびベトナムの規制の双方の規定に注意を払って事業運営をすることが求められてきています。


以上

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