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【AGS法務部ニュース】最新法令のアップデート: 新証券法の改正点

 2019 年 11 月 26 日にベトナム国会は、公開会社の証券取引等に係る律 No.70/2006/QH11、修正法No.62/2010/QH12(以下、総称して「現行証券法」)の改正法にあたる、新たな証券法No.54/2019/QH14(以下、「新証券法」)を正式に可決しました。新証券法は 2021 年 1 月 1 日より施行されます。
新証券法は全 10 章・135 条からなり、証券に関する活動および証券市場、証券分野の組織または個人の権利義務、証券市場の開設、証券および証券市場に関する国家管理等を規定しています。

 新証券法の適用対象は、ベトナム証券市場における証券投資および活動に参加するベトナムの組織または個人(外国人を含む)、証券および証券市場に関する国家管理機関、証券活動および証券市場に関係を有するその他の機関、組織および個人となります。

 その主な改正点は、以下の通りです。

1. 一般規定の変更


No.

項目 現行証券法

新証券法

1

証券の種類 第 6 条 1 項によると、証券は発行組織の財産または資本に対する保有者の権利および合法的利益を証明する証書を意味する。証券は証書、振替口座簿への記載または電子データの形で徴憑され、以下の各種からなる。
a) 株券、債券、出資証券
b) 株式購入権、ワラント債、コールオプション、プットオプション、先物契約、集合証券および証券指数
c) 資本拠出契約
d) 財務省が定めるその他の証券
第 4 条 1 項によると、証券は以下の資産を意味する。
a) 株券、債券、出資証書
b) ワラント債、担保付社債、株式購入権、預託証券
c) デリバティブ証券
d) 政府が定めるその他の証券

2

私募の定義 第 6 条 12a 項によると、私募は機関投資家を除いた 100 名未満の投資家に対し、マスメディアまたはインターネットを利用せず証券を募集をする組織を意味する。 第 4 条 20 項によると、私募は公募に該当しない証券の募集を意味し、以下のいずれかの方法を含む。
a) 機関投資家を除いた 100 名未満の投資家に募集を行う。
b) 機関投資家のみに募集を行う。

3

機関投資家
の定義
第 6 条 11 項によると、機関投資家は商業銀行、金融会社、ファイナンスリース会社、保険事業組織、証券事業組織を指す。 第 11 条によると、機関投資家は適当な資金または証券に関する専門を持つ投資家を指し、以下の者からなる。
a) 商業銀行、外国銀行支店、金融会
社、保険会社、証券会社、証券投資ファンド管理会社、証券投資ファンド、国際金融機関、予算外金融ファンド、関連法により証券の購入が許可された国有金融組織
b) 払込済定款資本が 1000 億ベトナムドンを超える企業、上場組織または取引登録組織。
c) 証券専門家免許証の保有者
d) 証券会社によって確認された価値が20 億ベトナムドン以上である上場または取引登録された証券を保有する個人
d) 税務機関に提出された税務書類または税控除書類にしたがって、直近年度の課税所得が 10 億ベトナムドン以上である個人

4

公開会社の定義 第 25 条 1 項によると、公開会社とは以下のいずれかの株式会社を意味する。
a) 株式の公募を実施した会社
b) 証券取引所に上場している会社
c) 機関投資家を除く 100 名以上の株主によって保有されており、払込済定款資本が 100 億ベトナムドン以上である会社
第 32 条 1 項によると、公開会社とは以下のいずれかの株式会社を意味する。
a) 払込済定款資本が 300 億ベトナムドン以上であり、議決権付株の 10%以上が 100 名以上の株主(ただし、発行会社の議決権付株式の 5%以上を保有する大株主でない)によって保有されている会社
b) 法律の条項に従って国家証券委員会に最初の株式募集の登録を完了した会社

2.証券活動および証券市場における禁止行為

 新証券法第 12 条によると、証券活動および証券市場における禁止行為は以下の通りです。

  1) 証券募集、上場、証券取引、投資、証券関連事業の提供に対して誤解、重大な影響を生じさせる方法により、直接的または間接的に詐欺、文書偽造、真実の情報を隠蔽するための虚偽の情報の提供または必要な情報の省略を行う行為。 

  2) 自己または他人の証券の売買のために内部情報を利用する行為。内部情報を漏洩または提供する行為。内部情報に基づいて他人に証券の売買を助言する行為

  3) 自己または他人の 1 つないし複数の取引口座を利用し、架空の需給を作出して証券の取引をする行為。証券価格を操作するために他人と共謀する行為。虚偽の情報を使用したか否かにかかわらず、証券価格を操作するためにその他の方法を行う行為。

  4) 国家証券委員会の許可、証明書の発給または承認なく証券業務を行う行為。

  5) 顧客から委託されることなく、または法律の規定に違反し、顧客の口座または財産を使用し、その信頼を毀損する行為。

  6) 証券取引のために他人に口座を貸し、証券価格を操作する目的で他人の名義で証券を保有する行為。

  7) 証券法の規定に違反して証券取引市場を組織する行為。

3.証券公募条件の変更

 現行証券法第 12 条では証券の公募条件が規定されているところ、新証券法では株式の新規公募条件が追加され、また追加募集、社債の発行のための条件も追加されています。

3.1 新規公募の条件


No.

項目 現行証券法

新証券法

1

募集登録時点の払込済定款資本 会計帳簿上 100 億ベトナムドン以上 会計帳簿上 300 億ベトナムドン以上(第 15 条 1 項 a)

2

前年度利益 募集登録年の前年度の事業活動が黒字であり、且つ募集登録年度までに累積損失がないこと 募集登録年の直近 2 年間の事業活動が黒字であり、且つ募集登録年度ま
でに累積損失がないこと(第 15 条 1項 b)

3

発行計画および募集による調達資本の使用計画 株主総会によって承認されていること 株主総会によって承認されいること(第 15 条 1 項 c)

4

個人株主への売却割合 類似条件なし 議決権付株式の 15%以上は大株主ではない株主 100 名以上に売却すること。ただし、発行会社の定款資本は1 兆ベトナムドン以上である場合、その比率は議決権付株主の10%以上となる(第 15 条 1 項 d)

5

大株主間の株式保有合意 類似条件なし 新規公募の前に大株主が募集終了日から少なくとも 1 年間、発行会社の定款資本の 20%以上を保有することを約束していること(第 15 条 1 項 đ)

6

刑事訴追 類似条件なし 発行会社が現在刑事訴追を受けておらず、且つ 経済犯罪で訴追されたとの記録が残っていないこと(第 15 条 1項 e)

7

公募申請の委託 類似条件なし 発行会社が証券会社である場合を除き、証券会社に公募登録の申請を委託していること(第 15 条 1 項 g)

8

上場、登録手続 類似条件なし 公募の終了前に発行会社の株式が上場または取引登録されていること(第15 条 1 項 h)

9

エスクロー口座の開設 類似条件なし 発行会社が公募した株式の購入代金の受領のためにエスクロー口座を開設していること(第 15 条 1 項 i)

3.2. 公開会社の追加株券公募の条件

 新証券法第 15 2 b 号により、公開会社による追加株券公募の条件は以下の通りとなります。

 1) 上記表の 136789 の条件

 2) 募集登録年の前年度の事業活動が黒字であり、且つ募集登録年度までに累積損失がないこと。

 3) 追加公募株式の価格が発行済株式の額面価額の総額を超えないこと。ただし、再販売のために発行会社の全ての株式を引き受ける旨、または発行会社の全ての未販売の株式、増資のために発行された株式、株式交換、統合・買収のために発行された株式を引き受ける旨の合意がある場合を除く。

 4) 発行会社のプロジェクトを実施するための資金調達を目的とした公募の場合、募集株式の少なくとも 70%は投資家に売却されなければならない。また、発行会社は、資本が不十分な場合に備え、調達予定の資金の欠損を補うための計画を準備しておく必要がある。

3.3 社債公募の条件

No.

変更項目 現行証券法

新証券法

1

募集登録時点の払込済定款資本 会計帳簿上 100億ベトナムドン以上(第 12 条 2 項 a) 会計帳簿上 300 億ベトナムドン以上(第 15 条 3 項 a)

2

公募申請の委託 類似条件なし 発行会社が証券会社である場合を除き、証券会社に公募登録の申請を委託していること(第 15 条 3 項 đ)

3

刑事訴追 類似条件なし 発行会社が現在刑事訴追を受けておらず、且つ 経済犯罪で訴追されたとの記録が残っていないこと(第 15 条 3項 e)

4

信用格付け 類似条件なし 政府が要求する場合、発行会社は信用格付けを受けていること(第 15 条 3項 g)

5

エスクロー口座の開設 類似条件なし 発行会社は社債の購入代金の受領のためにエスクロー口座を開設していること(第 15 条 3 項 h)

6

上場、登録手続 類似条件なし 公募の終了後に発行会社の社債を上場証券取引システムに上場させる旨を誓約すること(第 15 条 3 項 i)


3.4. 初回の証券投資ファンドへの出資公募の条件

新証券法第 15 条 5 項によると、初回の証券投資ファンドへの出資公募の条件は、登録する出資証書の総価値が 500 億ベトナムドン(現行証券法では 100 億ベトナムドン)であり、更に 2 つの条件を追加しました。

1) 新証券法によって定められた監督銀行によって公募が監督されていること(第 15 条 5 項 c)

2) オープンエンド型ファンドの出資証書を除き、公募されたファンドの証明書が公募終了後に証券取引システムに上場されること(第 15 条 5 項 d)

4. 証券私募に関する規定の変更

現行証券法

新証券法

第 10a 条 証券私募
2. 公開会社による証券私募の条件は以下の通りである。
a) 株主総会または取締役会の決定により、投資に関する特定の基準および数量に基づく株式発行計画および資本の使用計画が定められている。
b) 募集終了日から少なくとも 1 年間、私募株券、転換社債の譲渡が制限される。 ただし、会社労働者の選択プログラムによる私募、個人による機関投資家への募集証券の譲渡、機関投資家間の証券譲渡、裁判所の決定または法定相続による場合はこの限りではない。
c) 株券、転換社債の私募は、少なくとも 6 か月の間隔をあけなければならない。
 31  公開会社、証券会社、証券投資ファンド管理会社の証券私募
1. 公開会社の株券、転換社債および新株予約権付社債の私募の条件は以下通りである。
a) 株主総会または取締役会の決定により、投資に関する特定の基準および数量に基づく株式発行計画および資本の使用計画が定められている。
b) 私募に参加できる対象は、戦略投資家および機関投資家に限られる。
c) 私募株券、私募転換社債もしくはワラント債の譲渡は、戦略投資者に対しては募集終了後 3年間、機関投資者に対しては 1 年間制限される。ただし、機関投資家間の証券譲渡、裁判所の有効な判決書もしくは決定、仲裁決定または法定相続による場合はこの限りではない。
d) 株券、転換社債、ワラント債の私募は直近の募集終了日から 6 ヶ月以上の間隔をあけなければならない。
đ) 外国人投資家による株式の保有、社債の株券への転換、ワラントの実行は、法律の規定を満たさなければならない。
2.本条第 1 項に規定する場合を除き、公開会社は社債を私募するにあたり次の条件を満たさなければならない。
a) 株主総会または取締役会の決定により、投資に関する特定の基準および数量に基づく株式発行計画および資本の使用計画が定められている。
b) 私募に参加できる対象は、機関投資家に限るられている。
c) 私募社債の譲渡は機関投資家の間のみに制限される。ただし、裁判所の有効な判決書、決定、仲裁の決定または法定相続による場合はこの限りではない。
d) 事前に選択された金融組織に社債を募集する場合を除き、募集した社債の元本および利息、または私募の 3 年前に弁済期の到来した債務(もしあれば)を十分に支払うこと。
đ) 社債が発行される前年度の財務諸表が承認された会計監査組織によって監査される。
e) プルデンシャル比率および安全稼働率(もしあれば)が法律上の規定を維持する。
3. 株券、転換社債、ワラント債を私募する証券会社または証券投資ファンド管理会社は、本条第 1 項の条件を満たさなければならない。


5.
設立活動許可書と事業登録証明書の分離


現行証券法

新証券法

第 59 条 証券会社、 証券投資ファンド管理会社の設立および活動
1. 証券会社、証券投資ファンド管理会社 (以下「ファンド管理会社」) は、 企業法に定める有限責任会社または株式会社の形態で組織される。
2. 国家証券委員会は証券会社、ファンド管理会社に設立および活動許可書を発給する。この許可書は同時に事業登録証明書ともなる。
第 70 条 設立および活動許可書を発給、再発給、調整および回収する権限
国家証券委員会は証券会社、証券投資ファンド管理会社、証券会社支店およびベトナムにおける外国ファンド管理会社の設立および活動許可書を発給、再発給、調整および回収する権限を有する。
第 71 条 企業登録、事業登録
1. 設立および活動許可書を発給された後、証券会社、証券投資ファンド管理会社は企業法に従って企業登録を行わなければならない。また、証券会社支店およびベトナムにおける外国ファンド管理会社は事業登録機関で事業登録を行わなければならない。
2. 証券会社および証券投資ファンド管理会社は、企業法に定める有限責任会社または株式会社の形態で組織される。


6.
処罰制裁の強化

 現在、証券分野における違反行為に対する処罰規定は2012年の行政違反処分法、政令No.108/2013/ND-CP、証券および証券市場の分野における行政違反処罰に関する政令 No.108/2013/NDCPを修正する政令No.145/2016/ND-CPにおいて規定されています。

 そのほか、新証券法第 132 条では、以下の通り規定しています。

  ・以下の行為に対しての罰金は、その違反行為から得た違法な収益の最大10 倍となる。 

    - 自己または他人の証券の売買のために内部情報を利用する行為。内部情報を漏洩または提供する行為。内部情報に基づいて他人に証券の売買を助言する行為。

    - 自己または他人の 1 つないし複数の取引口座を利用し、架空の需給を作出して証券の取引をする行為。証券価格を操作するために他人と共謀する行為。虚偽の情報を使用したか否かにかかわらず、証券価格を操作するためにその他の方法を行う行為。

  ・証券分野における違反行為について処罰対象となる組織に対する罰金は、最大 30 億ベトナムドンとなる。

  ・証券分野における違反行為について処罰対象となる個人に対する罰金は、最大 15 億ベトナムドンとなる。

7.新証券法に基づく設立および活動許可書を発給に関する経過措置

 新証券法発効日(2021 年1 月 1 日)以前に許可書が発給され、新証券法第 135 条 1 項の条件を満たす証券会社、証券投資ファンド管理会社、証券会社支店およびべトナムにおける外国ファンド管理会社は、発効日 2 年以内に同第 71 条に従って企業登録、事業登録を行わなければなりません。特別に要求される場合を除き、設立および活動許可書の更新手続は不要となります(新証券法第 135 条 2 項)。

 他方で、新証券法第 135 条 1 項の条件を満たしていない証券会社、証券投資ファンド管理会社、証券会社支店およびべトナムにおける外国ファンド管理会社については、国家証券委員会は活動の停止を命令する、または設立および活動許可書を取り消すことになっています(同法第 135 条 2 項)。


以上

Japan
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