はじめに
ベトナムの現在の人口構造は、働き盛りの25歳~54歳が人口の45%を占めている。一方日本はというと、25歳~54歳の人口は38%と*、ベトナムが非常に「若い」国であることに異論はない。その一方で、ベトナムはASEAN諸国の中でも、ブルネイに次ぎ二番目に早く高齢化が進行しており、近い将来多くの高齢者を支えていく社会となっていくことが予測される。著しい経済成長と高齢化が並行している現状を受けて、政府は高齢者を支える社会基盤や法律の整備を進めている。また、ハード面の整備に限らず、日本同様、高齢者向けの介護サービスの需要が都市部を中心に拡大していくことが予想される。しかしベトナムでは介護は家族・親族の責任であるとする考え方が広く根付いており、介護需要拡大の抑止力として留意したい。*CIA WORLD FACTBOOK 2016調査目的・方法
1.ベトナムにおける介護サービスの全体像を把握する(施設訪問調査及びヒアリング調査)2.介護サービスの需要を調査する(アンケート調査)
目次
I.ベトナムの高齢者を支えるシステム・介護施設訪問調査及びヒアリング調査II.介護サービスの需要調査(アンケートベース)
III.考察
本文
I.ベトナムの高齢者を支えるシステム・介護施設訪問調査及びヒアリング調査
1. 高齢者を支えるシステム・介護施設訪問調査及びヒアリング調査
ベトナムにおいて、「介護」対象者と判断される人は、様々な形で支えられている。大きく分類すると、5つに分類することが出来る。下記一覧表と、詳細となる。<主体> | <メモ> | |
伝統 | 家族 | ベトナムは非常に家族を大切にする文化がある。その為、親の世話をしない子供は「悪い」「親不孝だ」と一般的に考えられている。 |
民間 | 家事代行 | メイドサービスの一環として、高齢者のケアが含まれているもの。 |
訪問介護 | 介護を目的とした、訪問型のサービス。 | |
入居 | 完全に入居するタイプの介護施設。 | |
デイサービス | 利用者は施設に通うが、居住はしない。ハノイに1件のみ。 | |
公立 | 社会保護センター | 高齢者に限らず、身寄りの無いハンディキャップを持った人が対象となる。 |
地域 | ボランティア (個人,寺,協会等) |
寺院や協会、個人が、身寄りの無い高齢者や働くことのできない人を支援している。 |
その他 | 病院 | 持病などがある際などの入院。往診もある。 |
訪問先
a. 地域/ボランティア/お寺のチャリティーセンター (Chùa Lâm Quang)
b. 民間/入居 (NURSING HOUSE DEVELOPMENT CO.,LTD)
c. 公立/社会保護センター(Trung tâm Nuôi dưỡng – Bảo trợ người già Thạnh Lộc)
a. 地域/ボランティア/お寺のチャリティーセンター Chùa Lâm Quang
<施設データ>サービス内容:主に日常生活上の世話、お寺でチャリティの世話をする人はお寺の方とボランティア。
利用者数:137人(2017年)
料金:無料
・チャリティーで運営されている。[資金、物資、スタッフ(修道女もいる)含め]
・利用される方は身寄りが無く、働くことの出来ない方である。
・利用者は区からの紹介で入居する。
<施設写真>
図1:正面門。大通りから少し路地を入った先に、建物はあった。
図2:利用者の生活スペース。食事・睡眠の場所。調味料や飲み物が、それぞれの生活スペースに見受けられた。談笑している様子は無く、お祈りをされている方や、横になっている方など静かに過ごされていた。ベッドマットは、固そうな素材であった。
図3:別の場所に置いてあった食事。お寺なので、野菜や穀物中心。
ヒアリング調査結果
利用者の高齢者について
<1日の過ごし方>
- スケジュールはなく、それぞれお経を聞く、寝る、など自由に過ごしている。
- 身寄りが無く、働くことの出来ない人が生活を送る為。
- 食事、シャワー、トイレ等。但し、家族同然の為、助けのいる時に手伝うことが原則。
<スタッフ人数>
- 修道女(15名)、ボランティア(14名)程度。スタッフの年齢層等は不明。
- ボランティアとして、数名の医療に関する勉強をした人が滞在。
b. 民間 入居施設・介護人材送り出し機関 NURSING HOUSE DEVELOPMENT CO.,LTD
※当施設は、他施設等と異なり、ベトナム人介護人材の教育及び送り出しを目的としている。<施設データ>
サービス内容:日常生活上の世話。
基本利用料金:1ヶ月12,000,000ドン(約5.8万円)
・日本人の方が代表をされている。
・施設は、①介護人材育成 ②介護者受け入れ を目的としている。
・利用者は富裕層中心。
<施設写真>
図1:入り口。施設は平屋で、開放的な作りであった。道を挟んで、施設利用者向けの庭園もあった。
図2:風呂場。日本とは違い、浴槽に湯を張ってつかる習慣が無い為、椅子に座ってシャワーを浴びる。
図3:利用者の部屋。全て2人部屋となっている。
図4:昼食。 食べる際には、混ぜて食べるそうだが、初めから混ぜるのではなく、見た目も大切にしているそう。
図5:昼食時風景。全体的に非常に開放的な施設であった。
ヒアリング調査結果
施設について
<施設の目的>
① 介護人材の育成・・・介護分野の技能実習生の日本への送り出しを目的とした育成。事業の中心。
② 介護サービスの提供・・・入居者とその家族への介護サービスの提供。
<この施設の特徴>
- 日本と同じシフト制で運営していること。その為、スタッフは日本に実習に行った際にも適応可能となる。
<1日の過ごし方>
- 8:00 朝食
- 12:00 昼食→お風呂
- 15:00 おやつ
- 18:00 夕食
<外出・面会の有無>
- どちらも有り。
- 自宅での介護が大変になってしまった家庭。
- 利用希望者は増加している
- お風呂
- トイレなど介助
- 女性、20代が中心
留意点
当施設は、日本に介護実習生としてベトナム人スタッフを教育し、送り出すことを目的として設立されたものである。ベトナムには日本の介護福祉士のような資格は無く、「介護」の概念すら日本とは異なる。特に介護の知識面において、ゼロからの教育となる。また、日本語の教育も併せて行う必要があり、短期間で結果を求めることは困難である可能性も否めない。日本での施設運営時とは、人材採用の側面で事情が異なることを留意したい。
c. 公立/社会保護センター Trung tâm Nuôi dưỡng – Bảo trợ người già Thạnh Lộc
<施設データ>利用者数:320名程度
対象者:動くことのできない身寄りのない方(高齢者に限らない)
利用料金:無料
・ホームレスの方が基本的に利用されているため、面会はない。
・ハンディキャップのある人が対象である為、高齢者に限らない。
※ 公的機関の為、施設内見学及び、ヒアリング調査は出来ず。
図1:正面 2014年に建て直したこともあり、非常に綺麗であった。
図2:救急搬送車、及び従業員向け駐輪場。300人以上の利用者がいることもあってか、50台近くはバイクがあったように見受けられる。
図3:施設建物に掲示されていた写真。施設内の様子が少し伺えた。
II.介護サービスの需要調査
アンケート対象者情報:ホーチミン市内在住 40代、50代、60代(34人)年齢 | 40代・・・38.2%(13人) 50代・・・38.2% (13人) 60代・・・23.5%(8人) |
性別 | 女性・・・76.5%(26人) 男性・・・23.5%(8人) |
出身地 | ホーチミン・・・38.2%(13人) ホーチミン以外・・・61.8%(21人) |
職業 |
|
1. 親又は高齢の親戚の介護をしていますか?
はいの回答の方→ 介護内容を教えてください。(複数回答可)
いいえの回答の方→ なぜですか?
最も多かった理由は、「近くで暮らしていないこと」であった。
2. 高齢の家族の為に介護サービスを利用したいと思いますか?
「はい」=利用したい人→ どのサービスを利用したいと思いますか?
そのサービスを利用する為に、月に捻出できる予算はいくらですか?
300万ドン以下(約14,600円) | 0人 |
300万ドン500万ドン未満(約14,600円~24,400円) | 10人 |
500万ドン1000万ドン未満(約24,400円~48,900円) | 7人 |
1000万ドン以上(約48900円以上) | 0人 |
「いいえ」=介護サービスを利用ない。(複数回答可)
III.考察
<仮説>:ホーチミン市在住であるが、出身地がホーチミン市でない場合に特に距離が介護の障壁になっているのではないか?<分析>
ホーチミン市以外の出身者21名のうち、介護をしていない人は12名、介護をしない理由は、「近くに暮らしていないこと」が8名、3名が「健康で必要がない」、さらに1人は「高齢者がいない」と回答した。このことから、ホーチミン市出身でなく、近くに暮らしていないことが、介護の障壁になっていることがうかがえる。
しかし、ホーチミン出身者13名のうち、介護をしていない人は過半数を超える8名、介護をしない理由は「近くで暮らしていない」が6名、「時間がない」「高齢者がいない」がそれぞれ1名ずつであった。
<結論>
よって、ホーチミンが出身地であるか否かに関わらず、現在ホーチミンに在住している人が介護をしていない理由は主に「近くに住んでいないこと」であった。
以上の調査結果から、ホーチミン市在住者は核家族化していると推測される。ひいては、訪問介護を、離れた高齢者の為に利用することを希望する人も多いのではないかと考えられる。実際、この度のアンケート結果を見てみると、介護サービスを利用したいと考える人のうち、利用したいと選択されたカテゴリーで最多だったのは訪問介護であった。なお、「介護をしている」と回答した人の介護内容は、洗濯や掃除、料理など「代わりに行う」ものが多く、訪問介護のニーズとマッチしていると捉えられる。家族以外に介護を依頼することに文化的な抵抗感が残るベトナムでは、今後「訪問介護(家事代行)」が主力となり浸透し、後に「介護施設」や「介護の専門家」のニーズが高まっていくのではないかと考えられる。
以下に調査上確認することができたベトナムの訪問介護を行う家事代行サービスの一覧を記す。
企業名 | CÔNG TY TNHH DỊCH VỤ TÂM VÀ ĐỨC | ||
住所 | 152/54/11 Lạc Long Quân, phường 3, Quận 11, TP.HCM | ||
HP | http://suckhoetamduc.com | ||
サービス内容 | ●健康(マッサージ、血圧、体温など)をチェック ●身体介護 (洗面、着脱、食事補助、歩行補助など) ●生活援助(衣料洗濯、掃除など)●運動、娯楽サポート ●入院時、介護サービス |
||
料金 | 自宅:230,000~300,000VND/日(約1,118円~1458円) 病院:300,000~390,000VND/日 (10,000VND=約49円) |
||
企業名 | CÔNG TY TNHH DỊCH VỤ NHÂN ÁI | ||
住所 | 89 Hưng Phú, Phường 8, Quận 8, TP.Hồ Chí Minh. | ||
HP | http://nhanai.com.vn/ | ||
サービス内容 | ●健康(マッサージ、血圧、体温など)をチェック ●身体介護(洗面、着脱、食事補助、歩行補助歩行など) ●生活援助(衣料洗濯、掃除など) ●運動、娯楽をサポート |
||
料金 | 250,000VND/日 | ||
企業名 | Công Ty TNHH MTV Tổng Đội TNXP Trường Sơn | ||
住所 | 62 Nguyễn Văn Đậu, Phường 6, Quận Bình Thạnh, Tp..HCM | ||
HP | http://nguoigiupviec.org | ||
サービス内容 | ●身体介助 ●生活援助 ●運動、娯楽をサポート (詳細は確認できず。) |
||
料金 | 220,000VND/日 |
日系 訪問介護サービス実施企業 ベトナム進出
日本の「さくら介護グループ」はベトナムに「家事代行サービス」の形態で進出しており、サービスの中には、「ELDERLY CARE」も含まれている。こちらはオーダーメイドでのサービス承りで、希望の内容で価格変更があるそうだ。当グループは、ベトナムの他にタイのバンコクにも展開している。
以上。