近時、ベトナム警察関係者が一般市民に対して暗号資産および仮想通貨への投資の違法性、危険性について注意喚起しているとの報道がありました。
そこで、COVID-19 の影響等によりベトナム国内の電子商取引も活発化している中、暗号資産および仮想通貨が法令上どのように位置付けられ、規制されているかに関する概要についてあらためてご紹介させていただきます。
なお、本内容は配信時点での公開情報に基づく一般的な見解を紹介するにとどまり、特定の事実に基づく法的意見や助言ではない点にご留意ください。
1.ベトナム国家銀行の見解および中央省庁による研究
ベトナム国家銀行は政府事務所宛ての 2017 年 7 月 21 日付けのオフィシャルレターNo.5747/NHNN-PC の中で、投資に対する重大なリスクも考慮し、ビットコイン、ラインコインを含む暗号通貨は現行ベトナム法令に従った合法的な通貨ではなく、暗号通貨の発行、提供または使用は禁止されていると述べています。このオフィシャルレターは、あるベトナム人が政府事務所にビットコイン、ライトコインを含む暗号資産のマイニングをするためのプログラミングについて要望を提出したことを端緒として、政府事務所が国家銀行に意見を求めたことに対する回答となります。その根拠となる現行法令については下記 2 で詳述します。
他方、当局の度重なる注意喚起にも関わらず、ベトナム国内において暗号資産および仮想通貨への投資または使用が止まないのも現実であり、それらの社会的実情も踏まえ、2017年 8 月 21 日に首相は暗号資産、電子マネー、仮想通貨(暗号通貨)に対する管理および処理の法的枠組を整備するための提案として決定 No.1255/QĐ-TTg を公布しました。同決定に従い、以下の計画に従って調査、法令の立案等が計画、実行されています。
時期 |
担当機関 | 実施活動 |
成果 |
2018 年 8 月 |
司法省 |
– ベトナム法制度全体を見直す。 – 暗号資産および仮想通貨に関する問題に対して実際の不備、問題点を調査、集計する。 – 諸外国(アメリカ、EU、日本等)の国際的な経験を研究、調査する。 – 専門家と相談会・セミナーを開催する。 |
ベトナムおよび国際における暗号資産、仮想通貨に関する実践、法制度全体の見直、評価およびオリエンテーションの識別、提案の報告書の政府への提出。 |
ベトナム |
– 電子マネーに関する法規範文書の新たな公布、修正、補修を提案および研究、見直しを行う。 | 暗号通貨に関する法規範文書を見直し、改正、補充および公布する提議報告書を政府に提出予定。 | |
2018 年 12 月 |
司法省 |
– 暗号資産および仮想通貨に関する法規範文書を立案する。 | 2015 年法規範文書発行法に基づく暗号資産および仮想通貨に関する法規範文書を提案予定。 |
2019 年 6 月 |
財務省 |
– 暗号資産および仮想通貨に対する税金に関する法規範文書の公布、修正および補充を研究、提案する。 | 2015 年法規範文書発行法に基づく暗号資産および仮想通貨の税務に関する法規範文書を提案予定。 |
2019 年 9 月 |
公安省 |
– 暗号資産および仮想通貨に関する詐欺、マネーロンダリング、テロ資金援助および他の犯罪に関する刑事罰、防止措置を研究、提案する。 | 暗号資産および仮想通貨に関する詐欺、マネーロンダリング、テロ資金援助および他の犯罪に関する刑事罰、防止措置を提案する報告書を政府に提出。 |
司法省 |
– 暗号資産および仮想通貨に関する行政違反処分、防止措置を研究、提案する。 | 政府首相への暗号資産および仮想通貨に関する行政違反処分、防止措置を提案する報告書を政府に提出。 | |
2020 年 12 月 |
司法省 |
– 暗号資産および仮想通貨に関する法律を修正、補充する法律を研究し、立案する。 | 2015 年法規範文書発行法に基づく暗号資産および仮想通貨に関する改正、補充法令を政府に提出予定。 |
2.暗号資産に関する現状の取扱い
上記首相決定に従って一部の報告書の提出等がされているものの、暗号資産の取扱いについて明確にする法令は現時点では公表されていません。そこで、ベトナム国家銀行のオフィシャルレターの中で根拠として言及されている法令等、現時点で可能な範囲で、暗号資産に関連する現行の法令について解説します。
(1) 電子商取引、非現金決済手段としての暗号資産
ベトナム国家銀行法上、国家銀行によって発行された紙幣および貨幣がベトナム社会主義共和国の領域内の法的支払手段であるところ、小切手、支払指図、銀行カードといった非現金決済手段については国家銀行が予め規定したもののみ合法であり、それ以外の何らかの決済手段は違法であるとされています(法 46/2010/QH12 第17 条 2 項、政令 101/2012/ND-CP 第 4 条、政令 80/2016/ND-CP 第 1 条 1 項)。
(2) 行政罰、刑事罰
違法な決済手段を発行、提供または使用し、刑事訴追の対象とならない場合、個人であれば50,000,000VND ~ 100,000,000VND、組織であれば 100,000,000 ~ 200,000,000VND の行政上の罰金の対象となります(政令88/2019/ND-CP 第 26 条 6 項d、第 3 条 3 項 d)。また、刑事罰として、故意に違法な決済手段を発行、提供または使用して 100,000,000VND 以上 300,000,000 未満の財産的損害を発生させた場合、金融機関業務に違反する罪として 50,000,000VND~300,000,000 の刑事上の罰金または6 ヶ月以上 3 年以下の懲役に処されるおそれがあります(刑法 100/2015/QH13 第 206条 1 項 h)。
その他、暗号資産がマネーロンダリング目的の取引で使用された場合、特別な刑
事犯罪として処罰される可能性もあります(刑法 12/2017/QH14 第 1 条 122 項)。
以上