Search

【AGS法務部ニュース】最新法令のアップデート: ベトナム旧正月前後の法令ニュースまとめ

 ベトナムにおいても連日、新型コロナウイル感染症(COVID-19)に関する報道が多数され、弊社でも関連する法令アップデートを配信しておりますが、その他に注目すべきニュースを以下3件まとめてお知らせ致します。いずれも、ベトナムにおける事業運営上のリスクとチャンスに関連する法令情報となります。

 1. 旧正月前に発生したストライキ

 2. ベトナム税関職員への贈賄による書類送検~日本とベトナムの贈収賄規制

 3. ダナン市での投資手続の電子化の開始

1. 旧正月前に発生したストライキ

 2020年1月20日、ベトナム労働総同盟により全国でストライキの18件が発生したという情報が公表されました。その内訳としては靴、繊維等の労働集約型産業の企業におけるストライキが大部分を占めています。当時は旧正月を控えた時期ということもあり、給料・賞与の金額や期日通りの支払、旧正月の休暇スケジュールの事前通知がその主たる原因となっています。

 具体的な事案としては、2020年1月16日、Vinh Phuc省の靴を製造する企業の労働者約3,000人が旧正月の賞与金額が低いことに不満を持ちストライキを実施しました。労働者らは賞与金額として1ヶ月分の給与相当である3,651,000VND程度を支給するように要求しました。

 また、2020年1月1日から同月6日までの間、Tay Ninh省の繊維工場の労働者役1,300人が給料を3,250,000VNDから3,490,000VNDまで増額し、食事の質を改善することを要求してストライキを実施しました。結果として、使用者は給料を3,460,000VNDに増額し、食事の金額を1回あたり15,000VNDにすることで解決し、1月7日から工場の稼働は再開されました。

 ストライキに関連する労働法の解説については弊社ホームページ(http://ags-vn.com/ja/news/37687.html)を参照ください。

2. ベトナム税関職員への贈賄による書類送検~日本とベトナムの贈収賄規制

(1) 直近の摘発事例

 2020年1月20日、愛知県警は同県北名古屋市の男性会社員について、追徴課税を減額させる目的でベトナムの税関職員に対して賄賂を渡したとして不正競争防止法違反(外国公務員贈賄)の疑いで書類送検したことを発表しました。

 発表によると、男性は電線加工品販売会社のベトナム現地法人の代表を務めていた2014年頃に原材料を輸入した際に実際と異なる品目や数量を書類に記載し、関税の過少申告したところ、これに対する追徴課税の減額や行政処分の減免を目的としてハイフォン市税関局の職員2名に対し735万円相当のベトナムドンを賄賂として提供した疑いがもたれていました。男性は賄賂の見返りとして追徴課税の金額が約5,000万円から400万円に引き下げられたことを認めました。

 その後、男性は2020年1月20日に略式起訴され、罰金100万円の略式命令を受けました。

(2) 日本の刑法と不正競争防止法

 刑法には贈収賄の罪が規定されており、これらは「公務員」が賄賂を収受したり、「公務員」に対して賄賂の供与する行為等に適用されます。

 ここで、「公務員」とは「国または地方公共団体の職員その他の法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」と定義されています(刑法第7条1項)。すなわち、「公務員」とは、国家公務員法・地方公務員法にいう職員や国会議員、地方議会の議員、公務を委任された非常勤の職員等を指し、判例上も外国の公務員は「公務員」には含まれません。そのため、日本国籍の者が外国の公務員に対して賄賂の提供をしたとしても日本の刑法の贈賄罪には該当しないことになります。

 もっとも、国際化に伴って外国公務員等との関わりも増え、日本国内の公務の公正性のみならず、国際的な商取引の公正性、公正な競争の確保が求められるようになり、この目的を実現するために不正競争防止法の中に外国公務員等の利益供与の禁止規定が置かれています。

 現在の不正競争防止法第18条1項には、外国公務員等に対する不正の利益供与等の禁止として「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、またはその地位を利用してほかの外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、またはその申込み若しくは約束をしてはならない。」と規定されており、「外国公務員等」に対して、営業上の不正の利益を得る目的で、その職務行為をさせないために賄賂を提供する行為等が禁止されています。

 この「外国公務員等」には、外国政府または地方公共団体の公務に従事する者や、外国の公的な企業の事務に従事する者などが含まれます(不正競争防止法第18条2項)。

 不正競争防止法第18条1項に違反する行為を行った本人に対する罰則は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科であり、その者が法人の代表者や従業員であり不正の利益の供与等の行為が法人の業務に関し行った場合には、その法人に対しても3億円以下の罰金刑が課される可能性があります。

日本人については日本国外で対象行為を行った場合にも処罰対象となりますので、日本のみならずベトナム国内においても処罰対象となる行為を行なわないように留意する必要があります。

 上記(1)の事案は、同時期に発生したベトナムのODA案件や鉄道プロジェクトに関連して賄賂の提供が行われた事案と比較すると賄賂の金額は少ない中で罰金刑が科されており、また現地法人による不適切な税関申告を端緒とする特殊な事案とまではいえない点において、日系企業が汚職防止の対応方法を検討する際に参考にすべき事案といえます。

(3) ベトナムの贈収賄規制の概要

 贈収賄に関するベトナムの法令には、汚職防止法No.36/2018/QH14(「汚職防止法」)、汚職防止法の実施細則を規定する政令No.59/2019/ND-CP(「政令59」)、刑法No.100/2015/QH13(「刑法」)、刑法の修正法No.12/2017/QH14があり、これらはすべて現時点で施行されています。

 まず、汚職防止法では、公的機関およびそこで職務・権限を有する者がその職務に関する組織、個人から贈答を受領することが一律に禁止されています。汚職防止法および政令59が施行される以前は、伝統的行事や結婚式、旧正月時期に提供される500,000VND未満の価値の贈答品で、汚職行為を目的として提供されたものでない等の場合には職務・権限を有する者はこれを受領することができると規定された政府による決定No. 64/2007/QD-TTgがありました。これを根拠として、ベトナム社会においては社交儀礼としての贈答品が許容されると考えることができました。しかし、政令59が施行された2019年8月15日より同決定は失効しており、上記のように贈答の受領が禁止されています。

 次に、刑法の中には汚職関連犯罪として贈収賄の規定が置かれています。自己の利益または特定の職務の履行若しくは不履行に影響を与える目的で賄賂を提供した者はその金額に応じて20,000,000VND以上の罰金や非拘束矯正、懲役に処されるおそれがあります(刑法第364条1項~5条)。また、外国公務員、公共国際組織の公務員または公的機関以外の企業若しくは組織において役職または権限を有する者に賄賂を約束した者も贈賄罪として刑法の処罰対象となっていること(刑法364条6項)には注意が必要となります。

 ベトナムにおいても昨年からより厳格に規制する贈収賄関連の法令が施行されています。今後の取締強化も念頭におきつつ、少なくとも日本およびベトナムの規制の双方の規定に注意を払って事業運営をすることが求められてきています。

3. ダナン市での投資手続の電子化の開始

 ダナン市では2020年2月10日より電子メールまたは電話での企業登録申請を可能とする登録手続サービスを開始しました。これにより、外国投資家を含め、ダナン市内に新規に会社を設立する、またはダナン市内に登録済みの企業が下記の投資プロジェクトに関する変更申請等を行う場合には、ダナン市計画投資局企業支援局に電子メール等で申請をすることでこれらの手続を簡素化することが可能になります。

 ダナン市では既に行政サービスの電子化、オンライン化が進められており、今回の投資プロジェクト関連の手続で電子化が認められた事項は以下となります。
登録支援の範囲 手続期間 手数料
個人投資家向けの投資プロジェクト 4日 15,000,000VND/回
組織投資家向けの投資プロジェクト 4日 20,000,000VND/回
支店の設立:
§  投資プロジェクトを添付が不要な場合 4日 2,000,000VND/回
§  投資プロジェクトを添付を要する場合 4日 15,000,000VND /回
駐在員事務所の設立 4日 2,000,000VND/回
持分譲渡、株式取得、出資登録 4日 5,000,000VND/回
持分譲渡、株式取得、出資登録を伴う投資登録証明書の変更登録 4日 10,000,000VND/回
会社形態の変更を伴う株式購入、出資登録 4日 7,000,000VND/回
会社形態の変更、株式取得、出資登録を伴う投資登録証明書の変更登録 4日 10,000,000VND/回
事業分野(条件付き事業分野を除く)、住所、資本金、法的代表者の変更登録 4日 1,000,000VND/回
投資プロジェクトの目的、資本、住所の変更登録 4日 1,000,000VND /回
外国投資企業(FDI企業)の設立 4日 3,000,000VND/回
デット・エクイティ・スワップの形式の増資 4日 5,000,000VND/回
定款資本金の変更登録 4日 3,000,000VND/回


従前の申請書類を直接所轄当局に提出する場合の手続期間および費用は以下のようになっています。
登録の業務 手続期間 費用
投資方針決定範囲に属する投資プロジェクトの投資登録証明書 投資方針決定書を受領した日から

5 営業日
なし
投資方針決定範囲に属 さない投資プロジェクトの投資登録証明書 十分な書類受領後15日 なし
企業登録、新規会社の設立 十分な書類受領後3営業日 50,000VND
支店の設立 3営業日 50,000VND
駐在員事務所の設立 3営業日 50,000VND

以上

Japan
Vietnam