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【ブログ】日本企業のベトナム進出(投資インセンティブ編)

I. はじめに

 皆様こんにちは!

 AGSリーガルチームの杉原です。

 先日、旅行でホーチミンを訪れた日本人の友人を空港まで迎えに行った際に、友人が片手にコートを抱えている姿を見て驚きました。私がベトナムに来る前、日本はクールビズ期間であったため、よくよく考えてみると相当長期間コート・ジャケット類を着用していないことになります。友人から「帰国の際にはしっかりと防寒対策をしておくように!」との金言をいただいたのですが、帰国準備の前にもう少しだけ半袖生活に浸りたいと思います。

さて、今回のブログのテーマは、「投資インセンティブ」です。前回よりはじまりました「日本企業のベトナム進出」シリーズの第2弾となります。

本ブログが、ベトナム進出を検討している方々の一助となれば幸いでございます。

【リンク(「日本企業のベトナム進出」シリーズ)】

第1弾 進出形態編

1.優遇措置を受けるためには?

 ベトナムの法令では、特定の投資案件につき法人税・関税・土地使用料の減免等の優遇措置が設けられています。本ブログでは、どのような投資案件の場合に(優遇措置の要件)、どのような優遇措置を受けることができるのか(優遇措置の内容)をご紹介したいと思います。なお、紙幅の都合上、優遇措置の内容については、“土地使用料の減免”に限定して情報をお届けしたいと思います。

 現在ベトナムへの進出をご検討中で以下の要件を充たす方々…チャンスです!!

2.優遇措置の要件

 ベトナム進出にあたって優遇措置を受けるには、当該投資案件が、投資法(No.67/2014/QH13)及び政令(No.118/2015/ND-CP)によって定められる①投資優遇分野②投資優遇地域③大規模プロジェクトのいずれかに該当することを要します。それぞれについて確認してみましょう。

・①投資優遇分野(投資法15条2項a・16条1項、政令別表1‐A・B)

 ベトナム法令では、投資優遇分野につき、投資法及び政令で定められています。投資法では、これらの分野が列挙されており、政令で同分野を「特別優遇分野」(別表1‐A)と「投資優遇分野」(別表1‐B)に分類されております。


投資法に列挙されている投資優遇分野(投資法16条1項)
  • ハイテク産業、ハイテク及び研究・開発に資する製品
  • 新素材、新エネルギー、クリーンエネルギー又は再生可能エネルギー及び30%又はそれ以上の付加価値のある製品且つ省エネルギー製品
  • 電気製品、重要素材製品、農業機械、自動車及び自動車部品の製造、並びに造船
  • 衣類、繊維及び革製品の製造のための工業製品の製造
  • 情報技術、ソフトウェア及びデジタルコンテンツを含む製品の製造
  • 農業、水産業及び水産養殖業における育種、養殖及び加工、緑地化及び森林の保全、製塩、漁業及びその流通、動植物の種並びにバイオテクノロジーの生産
  • 廃棄物の収集、加工及び再利用
  • 開発及び経営への投資、インフラ設備の管理及び都市部での公共交通の開発
  • 就学前教育、一般的教育及び職業教育
  • 医療相談及び治療、製薬、製薬のための原材料、主要な薬品、必須医薬品及び社会的疾患の予防と治療に用いられる薬品、予防接種、バイオ医薬品、薬剤師による調薬剤、漢方薬並びに技術の取得又は新薬開発のための生物科学研究
  • スポーツトレーニング及び競技のための施設、若しくは障害者又はプロスポーツ選手の訓練のための施設並びに文化遺産の価値の保護及び促進
  • 老人病学・精神医学センター、オレンジ剤(枯葉剤)の害による患者の治療及び保護を受けることができない高齢者、障害者、孤児、又はストリートチルドレンのためのセンター
  • 人民信用基金、マイクロファイナンス機関
政令による分類(*)
特別投資優遇分野(別表1‐A) 投資優遇分野(別表1‐B)
  • ハイテク技術、情報技術、補助工業
  • 農業
  • 環境保護、インフラ建設
  • 文化、社会、スポーツ、医療
  • 科学技術、電子工学、機械、原料資材生産、情報技術
  • 農業
  • 環境保護、インフラ建設
  • 文化、社会、スポーツ、医療
  • その他
*「特別投資優遇分野」と「投資優遇分野」で重複している分野については、規定により更に細かく分類されています。
・②投資優遇地域(投資法15条2項b、16条2項)

 続いて投資優遇地域を見てみましょう。投資優遇地域は、「特に厳しい社会経済状況におかれている地域」(投資法16条2項a)と「困難な社会経済状況におかれている地域」(投資法16条2項b)に分類されます(本ブログでは、便宜上前者を「特別投資優遇地域」、後者を「投資優遇地域」と呼称します)。

 政令では、別表2で55の市・省を挙げ、各省を更に特別投資優遇地域と投資優遇地域に分類しています。

 驚くことに、これらの市・省の中には、人口が100万人以上の規模であるダナン市やハイフォン市も含まれています。その他にも、ゲアン省やタインホア省、ビンディン省、カインホア省等、人口約50万人規模の市・省も数多く含まれています。当然のことながら、これらの各市・省にそれぞれの特色があります。すなわち、活動するのにピッタリの地域が、実は特別投資優遇地域だったということもあり得るということになります。

・③大規模プロジェクト(投資法15条2項c・d)

 大規模プロジェクトとは、6兆ドン以上の資本規模の投資プロジェクト(大規模プロジェクト①)、農村地帯において500人以上の労働者を使用するプロジェクト(大規模プロジェクト②)をいいます(投資法15条2項c・d)。

3.優遇措置の内容

・土地使用料とは?
 それでは、上述の要件①②③に該当した場合にどのような優遇措置が受けられるのか、土地使用料の減免を例にとって確認してみましょう。

 具体的な内容を説明する前に、そもそも土地使用料とは何なのでしょうか?

 土地使用料を理解するには、まずベトナムの土地制度を理解する必要があります。社会主義国であるベトナムでは、私人の土地の所有は認められておらず、あらゆる土地の所有権は国民全体に帰属するとされています。そして、国家が所有者の代表として土地を管理し、私人が不動産を使用する場合には国家から土地使用権という形で権利を取得する必要があります。この土地使用権は更に細かく分類されるのですが、おおまかにいうと、ベトナムで土地を使用する場合、国家から当該土地を借りて使用しなければならないということになります。そのため、土地利用者は、土地使用の対価として“土地使用料”を貸主にあたる機関等に支払うこととなります。
・土地使用料に関する優遇措置 
 土地使用料に関する優遇措置については、政令(No.46/2014/ND-CP)に規定があります。
投資案件の内容 タイプ 優遇措置
特別投資優遇分野or特別投資優遇地域 C □土地使用税

免除

□土地使用料

タイプA:全ての賃借期間での免除

タイプB:18年間の免除

タイプC:14年間の免除
投資特別優遇分野+投資特別優遇地域 A
投資特別優遇分野+投資優遇地域 B
投資優遇分野+投資特別優遇地域 B
投資優遇分野+投資優遇地域 C
大規模プロジェクト① C
投資優遇分野 E □土地使用税

50%の減税

□土地使用料

タイプD:10年間の賃料免除

タイプE:9年間の賃料免除
投資優遇地域 D
大規模プロジェクト② D
*タイプBCDEについては、最大3年間の基礎工事のための租税免除が含まれています。


III. おわりに

 いかがでしたでしょうか。ベトナムでは、土地使用料の減免という例一つとっても、細かく規定が設けられ、投資分野に応じた優遇措置が設けられています。残念ながら本ブログでは扱えませんでしたが、ベトナムにはこの他にも優遇措置が設けられております。投資案件が、こうした優遇措置の対象となっている場合、少なくともコスト面においては進出のハードルがぐっと下がるのではないでしょうか。もっとも、こうした優遇制度は、往々にして“早い者勝ち”という性質があります。すなわち、現在であれば優遇措置の対象となっている進出案件でも、数年後には対象外となっている可能性もあるということです。こうした点は、制度が著しく変化するベトナムにおいては特に注意すべき点といえるかもしれません。

 以上、「日本企業のベトナム進出(投資インセンティブ編)」でした。次回もお楽しみに!



 AGSでは、創設以来、多種多様な案件処理を通して、設立関係をはじめとした進出分野において豊富な知識とノウハウを蓄積しております。設立関連の手続でお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

*参考

・独立行政法人国際協力機構(JICA)

・投資法:https://www.jica.go.jp/project/vietnam/021/legal/ku57pq00001j1wzj-att/legal_48_20150428.pdf

・投資法の条項の詳細な規定及び施行案内をする議定:https://www.jica.go.jp/project/vietnam/021/legal/ku57pq00001j1wzj-att/legal_20160531_09.pdf

・国際協力銀行「ベトナムの投資環境/2017年8月」

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