AGS市場調査・ビジネスマッチング部です。
私たちは、お客様企業に合うベトナム系企業を探すことを日々の業務の中で行なっています。パートナー候補となるベトナム系企業へのヒアリングの中で、日系企業と取引していない(または過去には取引をしていたが、取引を終了した)場合は、その理由を確認しています。多くは、「スピード感が合わない」や、「品質基準が合わない」、「商品(またはサービス)代金が高い」等が主な理由ですが、今回は、一風変わったベトナム系企業の日系企業と取引に至らない理由を紹介したいと思います。
それは、「日系企業のベトナム人購買担当者のコミッション要求が悪質で、またその金額が高いこと。」です。
正直、この言葉を聞いた時は、目が点になりました。私たち、日系企業は、商工会などを通しベトナム政府に対し、公的手続きの際の不正が少しでも改善されるよう働きかけています。そんな背景もあり、日系企業は不正をしていないと思い込んでいました。
ヒアリングによると、その日系企業の購買担当者は、
- 工場で、工具などを調達する際、単独で情報収集し、日本人の上司に報告する立場
- その情報収集の際に、コミッションを要求
- コミッションを拒否すると、同社を悪く評価し、別の企業から購入するように上司に報告する
- 口約束だけで実際にコミッションを支払わないと支払い遅延など意地悪をされる
- コミッションの要求額は契約金額の5%である
この事実に対し、何が問題で、どう対策すべきかを日系・ベトナム系企業へのヒアリングを交えながら考えてみます。
問題点 |
改善策 |
上司である管理者は報告を受けるだけであり、商談に入っていない | 管理者が価格交渉の過程に入る |
1人が複数の機能を担っているため、ブラックボックスになっている | 見積り担当と発注担当と支払い担当など購買機能を分ける |
悪意に気づいている人がいるかもしれないが、報告する手段がない | 密告ボックスを置いて、匿名で投函できるようにする |
コミッションや賄賂など、企業の取引の中で、個人が利益を得ることが悪いという認識が低い | 定期的なコンプライアンス研修を行い、なぜそういった行動が悪いことなのかを説明する |
チェック機能が働いていない | 定期的な社内監査を実施し、証票やメールのやり取り等を抜き打ちでチェックする |
キックバックを「あるものだ」ということを前提にしていない、社内でその取り扱いに関しての明確なルールや取り決めが無い | キックバックはあるものだということを前提にし、見積取得の段階で受け付けないことを明示するの事を義務つける、あるいは、会社として受け取り、利益にする為のルールを決める |
上記の問題点からも分かるように、購買担当がキックバックを要求することにはいくつかの要因があるのではないでしょうか。これらの問題を解決する為には、チェック機能の改善、社内環境の整備、コンプライアンスに対する意識改革など、多角的にアプローチし、少しずつ改善する取り組みを行う必要があると言えます。
かつての日本も、キックバック、リベート、コミッションなど呼び方は異なるにしても、様々な賄賂が存在し、特にゼネコン汚職やロッキード事件以後、社会全体としても、大きな意識改革は行われたことが、個別企業の意識改革にも繋がったのはないかと思います。
ただ、一言にキックバックといっても、必ずしも悪いことではないという点にも注目してください。
例えば日本の旅行・観光業では、「アール(R)」と呼ばれる顧客紹介料(キックバック)をお土産店やレストラン、観光施設から受け取り、それを旅行会社の収益するというのが常識的に行われており、キックバックそのものが一企業としての取引の形態の一つとなっています。
これは、キックバックそのものが悪いこととして禁止するのではなく、キックバックの取り扱いを明確化する事で、会社として対応する方法を取っているとのだと考えられます。
皆さんもご存知の通り、ベトナムでビジネスを行う場合、購買担当者に限らず、様々な取引の中で、キックバックや賄賂といった言葉が登場します。
それに対し、禁止する為の社内環境の整備や罰則の取り決めを行うのも一つの方法ですが、これらの想定される状況を予め洗い出し、その取り扱い方の明確なルールを設け、上手く付き合っていくのも解決策の一つだと言えます。
こういった問題の解決策として、会社の見えないところで発生するキックバックや賄賂が、取引先の選定を行う上で、公正かつ公平な比較を妨害する要因の一つとなることを、社員に理解してもらう事が始めの第一歩となります。
また、同時に会社として、どの様に付き合っていくのかということは、予め取り決めておく必要があるかもしれません。
キックバックに限らず、「うちの会社は大丈夫だよ~」と安心する前に、ベトナムならではのビジネス上の風習の一つとして捉え、改めて確認してみるもの良いかもしれません。