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I. はじめに
皆様こんにちは!AGSリーガルチームの杉原です。
いよいよ帰国日が迫ってまいりました。ベトナムに来た当初は、約3ヶ月という滞在期間につき「長い…」と感じておりました。しかし、こちらで生活し、ベトナムの魅力を肌身で感じるにつれて、帰国日が迫ることを物寂しく感じるようになりました。
今後は、滞在期間中に得た知識・経験を活かし、ベトナムと深く関わる存在になりたいと思います。
さて、今回のブログのテーマは「撤退」です。前々回より始まりました「日本企業のベトナム進出」シリーズの第3弾となります。
「撤退」と聞くと、「進出とは関係ないのでは?」「ネガティブなイメージがするな…」と感じる方もいるでしょうが、必ずしもそうではありません。「撤退」と「進出」は密接に関連しており、また、“ポジティブな意味での撤退”というものも存在します。
本ブログが、ベトナム進出を検討している方々の一助となれば幸いでございます。
【リンク(「日本企業のベトナム進出」シリーズ)】
第1弾 進出形態
第2弾 投資インセンティブ
II. おや!?「駐在員事務所」の様子が…?
駐在員事務所(REP)の撤退の場合、ベトナムでの成功の目処が立たず撤退するケースもありますが、ベトナムで本格的に活動をするために撤退するケースも多くあります[1]後者のケースについて説明しますと、日本企業がベトナム進出を目指す場合、いきなり現地法人を設立するケースも多くありますが、まずは足掛かりとして駐在員事務所を設立するケースが多くあります。しかし、駐在員事務所は市場調査など活動範囲が限定されており、営業活動を行うことは認められておりません(第1弾参照)。こうした場合、ベトナムで本格的に営業活動を実施するために現地法人を設立し、不要となる駐在員事務所の閉鎖手続を行うことが多くあります。ベトナム進出の新たなステップを踏むという意味で、こうしたケースでの撤退は上述の“ポジティブな意味での撤退”に該当するでしょう。
それでは実際に手続の流れを確認してみましょう。
【駐在員事務所の閉鎖手続に関する書類と提出先】
No | 項目 | 提出書類 | 提出先 | |
1 | 閉鎖に関する申請書の提出 |
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地方商工局 | |
2 | 閉鎖についての公示 | 駐在員事務所の事務所における閉鎖についての公示 | 駐在員事務所事務所 | |
3 | A | 各種契約書の解約手続 | 契約の解約署 | 社内保管 |
B | 資産の精算 |
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社内保管 | |
C | 税務手続 |
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地方税務局 | |
D | 労務手続 | 商工局からの 駐在員事務所の閉鎖確認書・労働許可証の返却確認書 労働許可証(原本) |
地方労働局 | |
E | 保険手続 | 社会保険料を納付し、社会保険庁より保険加入期間確認書を受領し労働者に返却する | 地方保険機関 | |
4 | 駐在員事務所の印鑑の返却 |
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地方公安署 (手続が完了後、公安局は印鑑返却済証明書を発行) |
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5 | 銀行口座の閉鎖手続の実施 | *銀行ごとに必要書類が異なる | 銀行 | |
6 | 閉鎖申請書の提出 | 上記記No.1の後に商工局から指示された関連書類を提出(税務義務完了証明書、印鑑返却証明書、銀行口座閉鎖証明書、事務所の賃貸契約書の解約証明書など) | 地方商工局 |
駐在員事務所を閉鎖する際には上記の手続が必要となります。駐在員事務所の閉鎖手続を怠りそのまま放置した場合、法人設立時に当局より指摘を受け、設立が困難となる可能性もあります。そのため、駐在員事務所が不要になる場合は、確実に上記の閉鎖手続を行う必要があります。
また、新たに法人設立する場合、法人設立手続も必要となります。法人設立手続を実施するタイミングについては、駐在員事務所の閉鎖手続と同時並行して行うケースがほとんどです。これは、駐在員事務所の閉鎖手続の期間がどのくらいの長さになるかの予想が難しく、同手続の完了を待っていたのではいつまでたっても法人設立の手続に着手できないという点が背景にあります。
*法人の設立手続に関しましては、第1回のブログをご参照ください。
III. もしもの場合に備えて(現地法人の撤退)
「進出形態」の際に駐在員事務所だけでなく法人を扱った以上、法人の「撤退」についての説明を省くわけにはいきません。進出時から「撤退」のことを知る必要はないとも思えますが、進出時にあらゆる事態を想定し、万が一の場合に備えておくといことは海外ビジネスで成功するために極めて重要なことといえるでしょう。以下では、法人の撤退について説明します。ベトナムにおける法人の撤退の方法に関しては、ベトナム企業法(以下法名略)に、会社の解散・清算に関する規定があります。その他にも、出資持分(株式)の譲渡が撤退の方法として考えられます。
・①会社の解散・精算
No | 項目 | 備考 |
1 | 解散決定の決議(202条1項) | |
2 | 解散決定に関する通知(同条3項・4項) | 1の決議につき、7営業日以内に、事業登録局・税務当局・労働者に対して通知をし、国家企業登録情報ポータルサイトへ公示しなければならない |
3 | 債務の弁済(同条5項) | 債務の弁済は以下の順序で行う ・未払賃金、退職金、社会保険等 ・租税公課 ・その他の債務 |
4 | 残余財産の分配(条6項) | 持分(株式)の保有割合に従い分配される |
5 | 解散申請書の提出(同条7項) | 債務弁済後5営業日以内に、事業登録局へ提出しなければならない |
6 | 登録情報の更新(同条8項) | 5の書類受領後5営業日以内に、国家企業登録情報ポータルサイト上で解散した旨が記録される |
・②出資持分(株式)の譲渡
出資持分(株式)を第三者に譲渡することについては、法令上禁止されておらず、特別の制限も課されていません(有限会社(53条)、株式会社(126条1項))。しかし、実務上は、出資者の変更を理由とする投資登録証明書(IRC)の変更申請が要求されます。・方法の選択について
法人の撤退については、方法が2種類あることから、実際に撤退する場合はどちらかの方法を選択しなければなりません。そのため、両方法のメリット・デメリットを理解し、手段を選択する必要があります。「解散・清算」については、主なメリットは譲渡先(買い手)が見つからなくても実施できるという点にあり、主なデメリットは会社の存続が消滅するため当局や労働者の協力が得られにくいという点にあります。他方で、「出資持分(株式)の譲渡」については、主なデメリットは会社自体が存続することから当局の協力を得られやすく手続が比較的早く完了するという点にあり、主なデメリットは潜在リスクを恐れ譲渡先が見つかりにくい点にあります。
IV. おわりに
以上、「撤退」についての情報をお届けしました。一言で「撤退」といっても想定されている場面はそれぞれ違うという点が海外進出の奥深さを表しているのではないでしょうか。ブログへの投稿は本ブログをもって最後となりますが、“ベトナムビジネス”という共通項で今後も皆様と関われることを切に願っております。
*参考
・「ベトナムの投資・M&A・会社法・会計税務・労務」(出版文化社)
・「ベトナム法務ハンドブック(第2版)」(中央経済社)
・BUSINESS LAWERS「ベトナムへの投資からの撤退の方法」(2017/12/13参照)
・同「ベトナム現地法人の解散及び精算の手続と実務上の留意点」(2017/12/13参照)
[1] ビナBIZ(ニュース/[日系企業]ベトナム駐在員事務所の閉鎖における留意点)
[2]https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/country/vn/invest_09/pdfs/vn12B040_jmusyoheisa_list.pdf