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【ブログ】ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度(3)

1.はじめに

皆様こんにちは!
AGSリーガルチームの杉原です。

ベトナム生活にもすっかり慣れました!
…と言いたいところですが、まだまだ圧倒されることがたくさんあります。

さて、今回のブログのテーマは「ベトナムと日本の離婚制度(離婚原因編)」です。
ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度シリーズの第3弾となります。

第1弾 ベトナムと日本の婚姻制度

第2弾 ベトナムと日本の離婚制度(制度概要編)


今回のブログでも、ベトナムと日本における離婚制度の情報をお届けしつつ、両国の制度を比較してみたいと思います。

2.離婚原因-日本編-

日本では、協議離婚(夫婦間の離婚意思の合致)の場合以外に、どのような理由があれば離婚が認められるのでしょうか。

日本の民法の裁判離婚に関する規定に、5つの離婚原因が定められています。


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各離婚原因について解説します。

第1号は、いわゆる不倫や浮気がこれに該当し、貞操義務
(*1)
に違反する状態です。第2号は、婚姻中の夫婦がそれぞれ相手に対して法律上負う同居義務、協力義務、扶助義務に違反した状態となり、第3号と第4号は、同居義務、協力義務、扶助義務の履行が不能な状態にあります。


第5号については、上記各号と異なり抽象的な規定となっています。DVや性格の不一致等が典型例であり、婚姻関係が破綻している状態であることを要します。

もっとも、上記離婚原因がある全ての場合に離婚が認められるわけではありません。民法第770条第2項では以下のような請求棄却事由が定められています。

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この規定により、裁判所は、“離婚原因の有無”だけでなく、その“程度”に着目して離婚の成否の判断をすることができるため、個々の事案に即した柔軟な対応ができることになります。

上記規定をみると、日本の民法では、1号~4号において離婚原因を例示しながらも、事案に即した判断が可能となるような制度設計がなされており、また、例示された離婚原因に該当しない場合でも、5号により事案に応じた離婚請求を認めていることがわかります。

3.離婚原因-ベトナム編-

ベトナム婚姻家族法は、協議離婚以外の場合に関し、以下の事実があれば離婚が認められると定めています。

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ベトナム婚姻家族法でも、日本の民法と同様に離婚原因が列挙されています。まず、同法では、①「夫婦の権利、義務に対して甚大な違反があって婚姻が深刻な状況に陥り、共同生活の維持ができず、婚姻の目的を達成することができない(こと)」(第56条1項)、②「家庭内暴力(があること)」(同条項)、③「失踪宣告された人の妻又は夫が離婚を請求(すること)」(同条2項)が離婚原因とされています。
・①について
婚姻中の夫婦の「権利、義務」につき、ベトナム婚姻家族法では、日本法と同じく、同居義務、協力義務、扶助義務が定められており
(*2)
、日本には明文規定のない貞操義務に関しても定められています(*3)


また、①について注目すべきは、夫婦の権利、義務に対する甚大な違反に加えて、婚姻が深刻な状況に陥っていること、共同生活の維持ができないこと、婚姻の目的を達成することができないことの根拠が必要となります。
・②③について
②③については、いずれも上述の夫婦の権利、義務に違反する行為であるにもかかわらず、①のような考慮事項が定められていません。


上記規定をみると、ベトナムの婚姻家族法においては、日本の民法と同様に離婚原因を列挙しているものの、夫婦の権利、義務違反が離婚原因となる場合の考慮事項が明記されており、同じ離婚原因でも事案に応じた判断が可能となるような工夫がなされています。

4.まとめ

いずれの国の法令中にも離婚原因が例示列挙されていますが、事案に柔軟に対応するための工夫がなされている点が共通しているといえます。

もっとも、その工夫がなされている部分に関し、両国で若干の差異があるように思えました。

【ベトナム】では、夫婦の権利・義務違反に関する離婚原因につき、夫婦の権利・義務違反に加えいくつかの明文化された考慮事項の検討を要するとすることで、裁判所による柔軟な対応が可能となってます。

【日本】では、離婚原因の有無につき、抽象的な文言を用いた規定を設けることで、その有無の判断の際に様々な事情を考慮することを可能としています。また、離婚原因が認められる場合でも、請求が棄却される場合を認めることで、同一離婚原因間でも差があることを示しています。

以上、ベトナム・日本における離婚原因についてのご紹介でした。
次回予定テーマは、「ベトナムと日本の離婚制度(離婚請求権者編)」です。お楽しみに!






*1
 “貞操義務”に関しては、日本法上明文の規定はありません。

しかし、上記の民法第770条1項1号や、民法及び刑法上で重婚が禁止されている(民法第732条、刑法第184条)ことから、夫婦は同義務を負うと考えられています。


*2 ベトナム婚姻家族法第19条1項・2項、第21条、第22条、第23条

*3
 「夫婦は、互いに…尽くし合(う)」(ベトナム婚姻家族法第19条1項)とは、夫又は婦は他人を愛してはいけない、異性と性交してはいけないという意味であると解されています。

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