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【ブログ】ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度(4)

1.はじめに

皆様こんにちは!

AGSリーガルチームの杉原です。

早いもので来越してから1ヶ月が経ちました。

最近、AGSオフィス前のグエンフエ通りで、挙式後の記念撮影をしている新婚夫婦をよく目にします。

笑顔に満ちた素晴らしい光景を目にして、幸せな気持ちに浸る反面、数週間続けて“離婚”をブログのテーマとして扱っていることを思い出し複雑な心境に陥ります…

さて、今回のブログのテーマは、「ベトナムと日本の離婚制度(離婚請求権者編)」です。

「ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度」シリーズの第4弾となります。

私が目にしたグエンフエ通りの新婚夫婦の方々が自身は”離婚請求権者”に該当するか否かなど決して気にすることのない人生を送ることを切に願いながら、今回の情報をお届けしたいと思います!

【リンク】

第1弾 ベトナムと日本の婚姻制度

第2弾 ベトナムと日本の離婚制度(制度概要編)

第3弾 ベトナムと日本の離婚制度(離婚原因編)

2.離婚請求権者-日本編-

まずは日本の制度を確認してみましょう。

「離婚を請求する権利を有する者(離婚請求権者)は誰なのか?」

このように質問された場合、皆さんはどのような答えを思い浮かべるでしょうか?

おそらく多くの方が“夫又は妻”と思い浮かべるのではないでしょうか。

実際に、「裁判上の離婚」に関する規定である日本民法第770条1項は、「夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。」と規定しています。

すなわち、夫又は妻は、いずれも離婚請求権者となり得る旨定められています。

もっとも、夫又は妻が事理弁識能力(自身の行為の結果を理解する能力)を欠く成年被後見人(民法第7条、8条等)の場合には、成年後見人も離婚の訴えを提起すること
(*1)
が認められます(人事訴訟法第2条1号、14条1項本文)。


民法第770条1項の「次に掲げる場合」とは、離婚原因(第3弾参照)がある場合を指します。

離婚原因の一つとして不貞行為があります(同条1号)。不貞行為とは、いわゆる不倫や浮気のことをいいます。

ここで次のケースを考えてみましょう。

夫は、妻に何度も注意されているが、不倫相手の女性にゾッコンで不倫を繰り返している。一方、妻は、夫がいつか自身の過ちを反省し戻ってくると考えていることから、離婚については考えておらず、婚姻関係を継続したいと考えている。夫は、そんな健気な妻の気持ちも知らず、次第に不倫相手の女性を“運命の女性”と考えるようになり、彼女と夫婦として今後の人生を歩んでいきたいと考え始めている。この状況下で、夫は、自身の不貞行為を原因として離婚を請求することを考えている。

このような場合に、離婚原因をつくった張本人である夫の離婚請求であっても認められるとすれば、妻は踏んだり蹴ったりですよね…

ここでの夫による請求は、いわゆる“有責配偶者からの離婚請求”に該当します。

有責配偶者からの離婚請求の可否につき、裁判所は以下の判断を下しています(*2)

2017-11-08_112831
明文規定はないものの、上記のような判例法により、国民感情に沿う結論が導かれています。

3.離婚請求権者-ベトナム編-

続いてベトナムの制度をご紹介します。

ベトナム婚姻家族法第51条は離婚請求権者に関し、以下のように定めています。

2017-11-08_112845
まずは、各項の内容を確認してみましょう。


・1項については、日本の民法と同様に、夫婦のいずれにも離婚請求権を認めていることがわかります。

・2項については、病気等により自己の行為の管理ができないこと、他方の配偶者による家庭内暴力の被害者であること、生命・健康・精神に対して甚大な影響があること、という3つの要件を充足する場合に、夫婦以外の第三者に離婚請求権を認めています。規定の状況下では、配偶者による離婚請求が期待できず、かつ、生命・健康・精神という重要な権利・利益を保護する必要があることから第三者に離婚請求権を認めたと考えられます。

この点、同様の規定は、日本にもあります。上述のように、日本では、夫婦の一方が成年被後見人である場合、成年後見人が離婚の訴えを提起できるとされています。この規定も、当人による訴訟追行が期待できない場合に、一方配偶者の権利・利益を保護するため、第三者に離婚請求を認めたものと考えられます。もっとも、日本の民法では後見人は欠格事由(民法第847条)に該当しなければ誰でもなり得ます。すなわち、場合によっては、一方配偶者の父・母・親戚のいずれにも該当しない者が離婚の請求をすることもあり得るということになります。

・3項については、妻及び子の保護のために夫による離婚請求を禁止する規定となります。日本の法令には同様の規定はありません。もっとも、日本においても、“有責配偶者からの離婚請求”の判断にあたって、判例は未成熟子の有無や配偶者の精神的・経済的状況に関する事情を要件としています。

 また、有責配偶者からの離婚請求以外のケースにおいて、妻及び子の事情を考慮要素とした判例(*3)もあります。

次に気になるのが、日本では、有責配偶者からの離婚請求に関する問題がありましたが、同様の問題がベトナムにもあるのかという点です。

この問題に関して、ベトナムでは、離婚を請求する配偶者にある有責性などのの事情は、少なくとも離婚請求権の有無の段階では問題とならないそうです。すなわち、ベトナムの婚姻家族法第51条各項のいずれかに該当すれば、離婚請求をすることができるようです。

4.おわりに

両国の制度の共通点は、夫及び妻に等しく離婚請求権を認めていること、一方配偶者による離婚請求が期待できず、同人の権利・利益を保護する必要がある場合に、第三者による離婚請求を認めていることでした。

他方で、離婚請求権を認める第三者、妻及び子の保護を目的とした夫の離婚請求の制限、有責配偶者の離婚請求の制限については違いがありました。

今更ではありますが、ベトナムの法令を学ぶ度に、「こんな規定があるのか!」と驚かされます。

今後も、ブログを通じて皆さんと“驚き”を共有できれば幸いです。

以上、ベトナム・日本における離婚請求権者についてのご紹介でした。

次回予定テーマは、「ベトナムと日本の婚姻制度(ベトナム人と日本人の婚姻編)」です。お楽しみに!




*1 
人事訴訟第14条1項では、「人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは、その成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。ただし、その成年後見人が当該訴えに係る訴訟の相手方となるときは、この限りでない。」と定められています。すなわち、訴える(原告となる)だけでなく、訴えられる(被告となる)こともできることになります(同条項本文)。もっとも、妻が離婚請求する場合で、夫が妻の成年後見人である場合、訴訟において夫は被告(訴訟の相手方)となることから、訴えを提起することはできません(同条項ただし書)。


*2
 最判昭和62年9月2日民集41・6・1423


*3
 最判昭和45年11月24日民集24・12・1943(妻の精神病を理由とする夫の離婚請求において、請求棄却事由(770条2項)の有無が問題となった事例)

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