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【ブログ】ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度(7)

I. はじめに

 皆様こんにちは!

 AGSリーガルチームの杉原です。

 これまで、6回にわたりベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度に関する情報をお届けしてまいりました。ベトナムの婚姻制度・離婚制度に関しましては、何も知らない状態だったこともあり、調査を進める度に「えっ!?そうなんだ!なるほど!」と驚くことが多々ありました。こうした経験は、慣れ親しんだ日本では中々得難い経験だと思います。そして、ブログとして情報を発信する以上、当ブログをご覧になられている皆さんにも同じような体験をしてほしいと願うばかりです。

 さて、今回のブログのテーマは、「ベトナムと日本の婚姻制度(総括編)」です。「ベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度」シリーズの第7弾(最終回)となります。これまでの調査の中で私自身が驚いたことにスポットをあてて情報をお届けしたいと思います。

 ベトナムの婚姻制度・離婚制度に関して、今一度皆さんと“驚き”を共有できれば幸いでございます。

【リンク】

1弾 ベトナムと日本の婚姻制度

2弾 ベトナムと日本の離婚制度(制度概要編)

3弾 ベトナムと日本の離婚制度(離婚原因編)

4弾 ベトナムと日本の離婚制度(請求権者編)

5弾 ベトナムと日本の婚姻制度(ベトナム人と日本人の婚姻編(1))

6弾 ベトナムと日本の婚姻制度(ベトナム人と日本人の婚姻編(2))

2017-11-27_102019

II. 調査を通じて

 7回にわたってベトナムと日本の婚姻制度・離婚制度に関する情報をお届けしてまいりました。当然のことではありますが、調査を通じてベトナムには日本と違う様々な制度があることを知りました。そんな中、特に印象に残ったのは“制度設計の難しさ”です。不特定多数の者に適用される制度を設計するにあたっては、多くのニーズの集約・調整を要すること、また、そうして出来上がった制度には何らかのメッセージが込められていることを痛感しました。以下では、私がこのように感じるに至った契機である【国際結婚における面接制度】を例にして、制度設計について感じたことをお伝えしたいと思います。

III. 国際結婚に関する手続の変遷

1.複雑な手続にヘトヘト…
 前回のブログで紹介しましたように、ベトナムでは2016年1月1日の戸籍法の施行により、それまで必要とされていた“婚姻申請者の男女”と“法務局局員”の面接が廃止されました[ⅰ]

同制度の廃止を知った当初は、「煩雑な手続は廃止されて当然ではないのか?」と感じていました。その理由は、ネット上にあるベトナム人との国際結婚を扱ったブログ等で、「手続が複雑で大変…」という意見・感想を多く目にしていたからです。必要となる手続は複雑…関連書類の作成・準備が必要…それでなくとも大変な婚姻手続の中でも、婚姻をしようとする男女にとって、2人揃っての出頭が求められる面接は、特に大きな負担となっていたことでしょう。

面接の負担の重さは、婚姻手続の所要期間の変化としても如実にあらわれています。制度廃止前は約30日掛かっていた手続ですが、制度廃止後は従来の半分程度の期間(約15日)となったようです。

 こうしてみると、上記面接をはじめとした手続の複雑さは、個人レベルでのグローバル化が進み、国際結婚が珍しくなくなった昨今においては時代錯誤感が否めないものとなっているように感じられました。
2.面接は本当に不要?
一見、一刻も早く婚姻を済ませたい男女2人の障壁となっているように思えるこの制度ですが、只いたずらに男女2人に負担を強いるものではなく、ちゃんとした目的のある制度だったのです。すなわち、この面接には、違法な仲介業者を通した結婚や偽装結婚、人身売買や性的暴行が目的の結婚等を防止する目的があったそうです[ⅱ]。実際の法令にも、結婚の意思の確認やお互いのコミュニケーション能力、理解度の確認等が面接事項として挙げられていました[ⅲ]。また、戸籍法施行による面接の廃止がベトナムの“花嫁輸出大国化”を招くとして警鐘を鳴らすベトナム人弁護士もいます[ⅳ]

ベトナムの婚姻制度を扱った第1弾のブログで、ベトナム婚姻・家族法では婚姻の成立において“意思の有無”及び“意思の内容”が重要となっており、偽装結婚等ではなく、真に家族関係を築く意思がなければ婚姻できないことをご紹介しました。また、会社スタッフに対し、結婚に関するインタビューをしたところ、全てのベトナム人スタッフが“結婚=幸福”というイメージをもっていることもご紹介しました。

このように、ベトナムでは、婚姻に関し“意思”を重視しているからこそ、夫婦となった男女が婚姻後も互いに思いやることができ、また、そうした夫婦の間で育った次の世代が自然と“結婚=幸福”というイメージを持つことができているのだと感じます。

ここで国際結婚及び離婚についてみてみましょう。厚生労働省が毎年発表している人口動態統計(平成28年度)によりますと、国際結婚した夫婦の離婚率は6割を超えています[ⅴ]。離婚原因別の情報がなく推測の域を出ませんが、それぞれの国や地域で育まれた価値観の違いが顕在化・衝突することで両者の間にズレや溝が生じ易いという点が、離婚率が高い理由の一つにあるのではないでしょうか。もっとも、これらの問題は、婚姻前・後に男女の間で適切に意思確認(コミュニケーション)がとれていれば解消できる問題であるとも考えられます。

ベトナムにおける婚姻に対する価値観や国際結婚の実情を鑑みると、面接による男女のコミュニケーション能力の確認は、国際結婚であっても、他のベトナム人夫婦と等しく幸福を体現してもらうために、上述の問題の解消をサポートする役割があったようにも感じます。

こうしてみると、婚姻の際の面接は、“煩雑な手続”と一蹴すべきものではなく、むしろ、ベトナム人の価値観に沿った手続とみるのが相応しいように感じます。
3.制度設計者の苦悩
 上述した面接の持つ役割からすると、同制度は、古くからベトナム婚姻家族法と共に二人三脚で歩んできたかのように思えます。しかし、この面接制度の歴史は浅く、2006年から設けられたようです。そして、同制度は昨年の戸籍法施行により廃止となっているので、機能したのは約10年ということになります。10年という比較的短い期間のうちに制度が生まれ、そして、廃止されたことからすると、制度設計者は、急速に進むグローバル化の中で様々なニーズの集約・調整を行う必要があったのだと思います。

 面接廃止に関する懸念点がある中で、制度設計者が面接廃止に舵を取ったということは、国際結婚における“意思確認”を軽視しているのではなく、その役割を夫婦となる男女2人に委ねるというメッセージが込められているのではないでしょうか。

IV. おわりに

 今回は、【国際結婚における面接制度】を例にしてみましたが、私たちが普段何気なく利用している“制度”にもそれぞれ制度設計者からのメッセージが込められているかもしれません。面接制度は、婚姻という大きな枠組みの中の一つの制度に過ぎませんが、制度設計者の苦悩の一部を垣間見た気が致します。

 以上、「ベトナムと日本の婚姻制度(総括編)」でした。

 次週からは、日本企業のベトナム進出をテーマとした情報をお届け致します。お楽しみに!

[ⅰ] 政令 No: 68/2002/ND-CP16,19  /  No: 69/2006/ND-CP1(4)a,(5),(6)a

[ⅱ] http://www.viet-jo.com/news/law/060727110136.html

[ⅲ] 政令 No: 68/2002/ND-CP16,19 / No: 69/2006/ND-CP1(4)a,(5),(6)a

[ⅳ] http://www.viet-jo.com/news/law/160106090202.html

[ⅴ] 夫婦の一方が外国人の場合の婚姻件数:21,180件、離婚件数:12,945

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