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I. 目的と調査方法
- 目的:最近、ベトナムの人口構造が変わり、将来は高齢社会になると言われています。そのため、ベトナム高齢化社会や経済・社会に影響する可能性等について調べることにしました。
- 調査方法:インターネット、アンケート
II. ベトナムにおける高齢化の現状
1. はじめに
- 社会経済の発展や公衆衛生の向上により、先進国のみならず、一部の開発途上国においても高齢化が進行しています。国連の推計によると、ベトナムは2017年には高齢化社会に突入することが予測されています。高齢化社会から高齢社会[1]への倍加年数[2]は、日本が26年であったのに対しベトナムは20年と、日本を上回る速さで進行しており、高齢者を支えていく社会づくりに向けた取り組みを早急に行う必要があり、その認識もベトナム国内に広がりつつあります。
2. 世界の高齢化
- 世界的に見ても、先・中進国、およびアジアを中心とした開発途上国で高齢化は進んでいます。2010年の国連推計によると、65歳以上の高齢者人口は約5億3,000万人(高齢化率7%)で、2050年には14億9,000万人(高齢化率15.6%)に達すると予測されている。
- 下記表-1に示すように、日本の倍加年数は他の先進国と比較しても類を見ない早さであり、2008年に超高齢化社会に突入し(65歳以上の高齢者人口の割合が21%以上)、2013年の高齢化率は1%と、世界で最も高い数値となっている。
表-1 主要国の高齢化率の推移
国名 | 到達年 | 倍加年数 (年) |
|
高齢化社会 (年) |
高齢社会 (年) |
||
日本 | 1970 | 1996 | 26 |
アメリカ | 1944 | 2013 | 69 |
カナダ | 1944 | 2009 | 65 |
イギリス | 1930 | 1975 | 45 |
スペイン | 1947 | 1992 | 45 |
中国 | 2000 | 2026 | 26 |
タイ | 2003 | 2025 | 22 |
ベトナム | 2017 | 2037 | 20 |
3. 東南アジア諸国連合(ASEAN諸国)の高齢化
- ASEAN諸国においても高齢化は急速に進んでいる。シンガポールとタイではそれぞれ1999年と2003年に高齢化社会に突入している。ベトナム、ミャンマー、カンボジア、インドネシアは高齢社会率が5から6%台と高齢化社会への突入が目前となっており、いずれの国においても倍加年数は日本と同等もしくはそれを上回る事が予測されている。
4.ベトナムの高齢化
- 人口動態[3]、高齢化率および高齢化の状況
- ベトナムの人口は2009年に8,500万人を超えたが、人口増加率は低下傾向にあり、1989年に4%を下回り、1999年に1.7%、2009年には1.2%となった。
5. 高齢化政策
- 高齢化の発展に伴い、2009年にベトナム政府は高齢者に関する法律「高齢者法」を制定し、2010年7月より施行した。同法は高齢化対策を包括的に規定した法律で全6章31条で構成されている。この法律で高齢者の権利と義務、高齢者の介護に関する家族や国・社会の責務、高齢者の社会参加及びベトナム高齢者協会(Vietnam Association of the Elderly,「VAE」)の役割などが規定されている。
- 高齢者法の実施に関する政令やガイドラインが制定されるとともに、高齢者の文化・社会・教育・経済・政治活動への参加促進や義務と権利の実行、心身の健康確保、生活の質の向上を目標に揚げる。
6. 高齢化対策に係る政策実施体制
- 高齢者対策は重要な課題である為、2004年に設置された国家高齢化委員会(Vietnam National Committee on Aging「VNCA」)が、国レベルにおける取り組みを統括している。VNCAは、高齢者の権利や義務、及び高齢者ケアなどに関するガイドラインや計画などの政策制定に関する首相補佐機関であり、副首相を委員賞として関連省庁などの幹部が委員となっている。定期的に各省・郡を訪問し、高齢者法や関連政策の実施状況をモニタリングし、その結果を取りまとめて首相に報告すると共に、年1回のセミナーを開催して情報の共有に努めている。
- 現在、ベトナム人にとって高齢社会に関する福利厚生についてどう思うか、アンケートを作成した。その結果に基づいて以下の統計になった[4]。
III. 調査結果と分析
1. 性別・年齢
- モニター対象は男性が30%(15人)、女性が70%(35人)を占めている。年齢は15~24歳が48%(24人)、25~34歳が16%(8人)、35~44歳が2%(1人)、45歳以上が34%(17人)と続きます。
2. 職業
- 会社員が38%(19人)、無職が18%(9人)、学生が16%(8人)、公務員が14%(7人)、アルバイトが4%(2人)、専門家が2%(1人)、その他が8%(4人)となっている。
3. ベトナム高齢化社会:
- 今回の調査で、ベトナムの高齢化現象を知っていると答えた人は32%(16人)のみとなっており、68%(34人)にあたる人は知らない選択している。
- 一方で、「ベトナムの高齢社会の問題に関心がありますか?」という質問に対して、「ある」と答えた人は58%(29人)、「ない」と答えた人は42%(21人)であった。
4. 社会の問題:
- 「高齢社会はベトナム経済に悪影響を及ぼすと思うか」という質問では72%(36人)の人が「悪影響を及ぼす」と答え、「特に影響を与えない」が12%(6人)、「分からない」が10%(5人)、「よい影響を及ぼす」が6%(3人)と続いた。
- ベトナム人は社会保障に対して不安を抱いているため、殆どの人が改善が必要だと感じている。「悪い」が68%(34人)、「分からない」が18%(9人)、14%(7人)が「良い」と続いている。
5. ベトナム高齢社会についての思案:
- 2016年から開始された定年退職制度について、60%(30人)の人が「分からない」を選択した。この60%の大半が若者なので、退職制度に対して興味が無いのかもしれない。
- 「新制度の方がいい」が26%、「旧制度の方がいい」が14%となっている。
- ベトナムでは地方ごとに多くの高齢者クラブが運営されている。これらの高齢者クラブの運営について、「改善する必要があるか」を調査をした。
- 「改善すべき」と答えた人が圧倒的で、全体の82%(41人)が選択をしている。「分からない」が14%(7人)、「必要がない」が4%(2人)と続いている。
- 高齢団体、旧軍人団体などのクラブは強制参加となっています。この事について「良い」が54%(27人)、「悪い」が26%(13人)、「分からない」が20%(10人)となっている。
- 高齢者になった時に介護施設で生活をすることについて、「生活したくない」が38%(19人)、「分からない」が34%(17人)、「生活したい」が28%(14人)を占めている。
IV. 結論
- 調査の結果、大半のベトナム人が高齢化に対して問題意識を持っていないことが分かりました。友人たちの意見では、マスコミによる報道が多くなればベトナム人も高齢化に対する意識が芽生えるはずだと言います。
- ベトナムでは高齢社会に対する意識がまだ芽生えていないが来たるべき、高齢社会に向けて高齢社会の先輩の日本のノウハウを活かした日系の介護企業がベトナムに進出できる余地が充分ある。
- 高齢社会では労働者が減るため、経済や社会福祉に大きな悪影響を与えることが予想されます。
[1] 総人口に対して高齢者(65歳以上)の人口割合が7%を超える社会を「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢化社会」と定義している。
[2] 「高齢化社会」に至るまでの所要期間のこと。
[3] 人口動態とは、出生や死亡、流入や流出などによっておきる人口の増減をさす。
[4] ベトナムの高齢化の現状と日本の支援の可能性【三木 博文・長井 圭子】こ う えいフォーラ ム第 23 号 / 2015.3